愛さなければ誰も死ななかったのに……。悲劇が連鎖する恐怖の「禁止」シリーズ最新『恋愛禁止』

文芸・カルチャー

更新日:2020/1/8

『恋愛禁止』(長江俊和/KADOKAWA)

 人を愛するのは、どうしてこんなにも難しいのだろう。相手が自分のことを受け入れてくれるとは限らないし、愛が相手の負担になってしまうことだってある。しかし、愛は私たちに生きる活力をくれるもの。どんなに困難でも、報われなくても、私たちは誰かを愛さずにはいられないのだろう。

 映像作家で小説家の長江俊和氏による最新作『恋愛禁止』(KADOKAWA)は、愛がもたらす悲劇を描いたノンストップミステリー。長江氏といえば、熱狂的ファンの多い深夜番組「放送禁止」シリーズや、小説『出版禁止』『掲載禁止』、ノンフィクション『検索禁止』などの「禁止シリーズ」で知られる。本作は「禁止」シリーズの最新刊であり、この作品も話題を呼ぶに違いない。愛の狂気を描いたストーリー展開はあまりにも恐ろしい。驚愕の内容に惹きつけられ、ページをめくる手を休めることができない物語だ。

 主人公は、静岡出身の女性・木村瑞帆。瑞帆は、高校時代の担任で、かつての恋人である倉島隆から、ストーカー行為を受けていた。交際していた時、瑞帆に日常的に暴力を振るい、精神的にも肉体的にも瑞帆を支配していた隆。隆から逃れるために、千葉の不動産会社に就職するも、ある夜、隆は突然瑞帆の前に現れ、瑞帆はふとしたことから隆を殺害してしまった。

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 だが、証拠をたくさん残してしまったはずの犯行は、どういうわけか明るみに出ない。どうして隆の遺体は忽然と消えてしまったのか。あの夜の出来事は、ただの悪夢だったのか。瑞帆は警察に怯えながらも、自首することもできずに悶々とした日々を過ごしていた。

 しかし、時は過ぎ、WEB関連の会社に勤める永峰健一と結婚、女の子を出産した瑞帆のもとに、「believer」を名乗る謎のメールが届き始める。「believer」はかつての瑞帆の犯行を知っているらしく、瑞帆に揺さぶりをかけてくる。かと思えば、瑞帆に対して虫唾が走るような甘ったるい愛の言葉のメールを送ってくることも…。彼は、一体、「believer」の目的は何なのか。愛がもたらす悲劇はどんどん連鎖していく。

 この物語の魅力は瑞帆の前に現れる3人の男たちの姿だろう。瑞帆が殺害するに至った倉島隆。夫の永峰健一。瑞帆に突然メールを送ってきた「believer」…。

 3人の男たちにはそれぞれの愛の形があり、それはどれも一見純粋と呼べるものばかり。しかし、その純粋さが瑞帆をじわりじわりと苦しめることになるのだ。瑞帆を待ち受けていたのは残酷な運命…。彼らは瑞帆に何を与え、そして奪ったのだろうか。

 特に「believer」が瑞帆に向ける愛情には、誰もが恐れおののくだろう。どうして彼の愛はこんなにも歪んでしまったのか。だが、最初は恐怖しか感じられない「believer」の姿が、物語が進むにつれ、切なく思えてくるのはなぜだろうか。

 愛とは何なのか。人を愛するとはどういうことなのか。この本を読むと、愛について考えずにはいられない。恋愛の“業”を描き出した、「禁止」シリーズ新境地。一瞬たりとも見逃せない衝撃の展開をぜひあなたも見届けてほしい。

文=アサトーミナミ