おたくマンガ家×2児育児! 笑って和んでホロリとする育児エッセイで感じる「いまだけの時間」の大切さ

出産・子育て

公開日:2020/1/8

『さらにつっこみが止まらない育児日記』(御手洗直子/ベネッセコーポレーション)

 以前、思春期の娘を持つ知人から「娘が腐った」と言われて驚いたことがある。この場合の「腐った」は「腐女子になる」の意味で、いわゆるBL好きになったということだ。聞けばクラスメートにもたくさんいるらしい…。

 このように「おたくな子の親」というのはありそうな話だが、いまどきは「親がおたく」というケースも普通だったりする。このほど登場した『さらにつっこみが止まらない育児日記』(御手洗直子/ベネッセコーポレーション)はサブタイトルに「おたくマンガ家ママ2児育児デビュー」とあるように、おたく(注:ママ・直子はBL、夫・トリ肉はゲームと、夫婦でおたく)の子育てを描いた爆笑コミックエッセイだ。

 作者はかつてpixivで累計閲覧数200万オーバー、のち単行本化となった婚活エッセイマンガ『31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる』で話題となった同人出身の漫画家・御手洗直子さん。無事に結婚して長女が誕生し、育児雑誌「たまひよ」のwebサイトで連載した育児エッセイ『つっこみが止まらない育児日記』では育児の大変さが巧妙な語り口でつづられ、爆笑できると大人気になった。本書は3歳5ヶ月差で二人目の娘が生まれたことをきっかけに描かれた続編だ。二人の子持ちとなった御手洗家にはいかなる試練が待ち受けるのか――今回も爆笑必至!

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 まずは次女の出産から幕をあける本書だが、心ゆくまでビデオや漫画にハマろうと心底楽しみにしていた8日間の入院生活が「痔」を再発して台無しになったり、二人目が生まれて、なるべく長女を優先しようと思ってもなかなかうまくいかなかったり、すくすく育っていると安心していた次女が予期せぬ病気にかかって慌てふためいたり…。

 当たり前だが、親がおたくだからといって子育てのやり方が変わるわけでもなく、基本的にはいわゆる「育児あるある」の連続だ。それを作者の鋭い観察眼ならぬ「つっこみ力」が「わかるわ〜」と笑いに変えてしまう。さすがです。

 女の子が二人といっても、天真爛漫かつキャッピーキャラの「むすめ:長女」と、クールで裏のあるデビルキャラの「2号:次女」と(すぐにキャラ設定するのもおたくっぽい・作者談)、当然ながら個性はまるで違うもの。「二人育児は大変そう…」と思いがちだが、二人目には案外手がかからなかったり、上の子が成長して手伝ってくれたり、親も慣れていい感じでいい加減になったりで「500万倍余裕の育児になった」と作者。大変さを上回る発見の連続に「二人いるのも楽しそう!」とも思えてくる。

 ちなみにこれからの御手洗家の問題は「子どもの成長とおたく生活をどう共存させるか」。作者は文字がわかり始めた長女の成長に慌て、急遽膨大な同人誌コレクションを収納すべく「鍵付きラック(1500冊収納)」を導入したものの、まだまだ収納しきれず頭をかかえている。この先どうしていくのか…全国の主腐のためにも続報を期待したい。

 なおラストのエピソードは、病気で亡くなった親族について。長女のことを散々可愛がってくれたというから、在りし日の仲のよさがうかがえるとともに、どうにもできない現実に戸惑う作者の姿になんだかこちらも泣けてくる。

 子どもの成長は嬉しい。だけど実は「いまだけ」の連続で、思ったよりずっと早い。親はいつも心の何処かで「永遠に失われていくもの」のせつなさを感じていたり…でも、そうであるからこそ、やっぱり子育ての「いまこの時」を心ゆくまで楽しまねば! 笑って和んでちょっとホロリとしながら、そんな前向きな気持ちになれる一冊だ。

文=荒井理恵