歌野晶午『間宵の母』の後味がトラウマに……! 2つの家庭が崩壊した後に待ち受けるものとは?

文芸・カルチャー

2020/1/11

『間宵の母』(歌野晶午/双葉社)

 また一作、しみじみ嫌な小説(褒め言葉)が誕生した。

 歌野晶午の新刊『間宵の母』(双葉社)である。

 歌野晶午といえば本格ミステリーの書き手として知られているが、本作は多少謎解き要素もあるとはいえ、純然たるホラーといってよい。しかも、スプラッタ、サイコ、心霊とあらゆる要素が詰め込まれた贅沢な(?)一作なのだ。

 4つの章から成るこの作品、各章で語り手となる人物は異なるが、話の中心には間宵家の母子三代が据えられている。

 数十年に及ぶ長い物語の引き金を引くのは、間宵紗江子の同級生である西崎詩穂だ。

 詩穂は、紗江子の家に招待されるのを心待ちにしていた。目的は、紗江子の継父・夢之丞の語るストーリーテリング。夢之丞は紗江子の母・己代子の10歳以上も年下の夫で、ハンサムで物腰柔らか、しかも話し上手ときているので、紗江子のクラスメイトやその母たちから絶大な人気を得ていた。特に、選ばれた女の子たちに披露するストーリーテリングは、聞いているうちに物語の登場人物が本当に目の前に飛び出てくると大評判だ。

 クラスメイトが次々と体験していく中、紗江子と仲良しであるはずの自分にはなぜか声がかからず、ジリジリする詩穂。そんなある日、ようやく招待された詩穂は、ウキウキと出かけた。ところが、なぜかその日のストーリーテリングは、とんでもない悪夢に終わってしまう。

 だが、本当の悪夢が始まったのはそれから数日後のことだった。なんと、夢之丞と詩穂の母・早苗が駆け落ちしてしまったのだ。

 夫・夢之丞に逃げられた怒りを西崎家にぶつけ、次第に常軌を逸した行動を取り始める己代子。

 妻に裏切られた現実に押しつぶされ、娘に暴力を振るうようになる詩穂の父。

 2つの家庭は崩壊し、詩穂は児童養護施設へ、紗江子は狂気に陥った母との2人暮らしを余儀なくされる。

 そこから起こる惨劇の数々を描くのが本書のメインストーリーなのだが、一番の読みどころは現実の奇妙な捻れだろう。

 第一章と第二章で、登場人物たちは妖しい幻影を見るのだが、その描写が冴えわたってえげつない。間断なく進んでいく出来事はいつのまにか非現実に取って代わられる。何が起こったかはわからない。ただ、一つだけ確実なことがある。幻影の先には、現実の崩壊が待っているということ。

 第二章では紗江子に害意を抱く大学の同級生、第三章では紗江子を見下す会社の同僚が登場し、どうやら惨劇の中心には常に紗江子がいるのではないかと疑い始めた状態で第四章に入ると、意外な人物が事の真相を明かしていく。絡み合う思惑、過去の清算、そしてあの女が再び! と息もつがせぬ展開だ。

 そして、ラスト。目の前の霧が晴れてスッキリするけれども、無茶苦茶後味が悪い終わり方。

 こんなアンビバレントな結末が存在するなんて驚くほかない。しかも、最後の最後のダメ押しがまた……。

 人間の悪意と狂気と暴力性が好物なら絶対一読の価値あり。そして読後、タイトルに込められた意味に気づくと、ますます背筋が寒くなることだろう。

 ああ、本当に嫌だ、嫌だ……。(褒め言葉)

文=門賀美央子