日本昔ばなしは「異常犯罪」の記録だった!? 残虐な殺人事件を「昔ばなし」で解決するバディミステリー!

マンガ

更新日:2020/6/5

『てっぺんぐらりん ~日本昔ばなし犯罪捜査~』(キリエ/白泉社)

 日本昔ばなしは異常犯罪の記録だ――。

 そんな風に言われたら、誰もが耳を疑うのではないだろうか。あんなにやさしいほんわかした物語が、「異常犯罪」の記録?

 しかし、よくよく思い出してみてほしい。確かに、昔ばなしで描かれるエピソードには残酷なものも少なくない。雀の舌を切断する、タヌキを溺れ死にさせる、猟師が凍死する……。子どもの頃はなんとなく聞いていた物語も、大人になって振り返ってみると実に恐ろしいものだったことに気づく。

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 そんな日本昔ばなしをベースにしたサスペンス・ミステリーマンガが登場した。それがドラマにもなった『4分間のマリーゴールド』の原作者・キリエ氏による『てっぺんぐらりん ~日本昔ばなし犯罪捜査~』(白泉社)である。

 本作の主人公は新人刑事の桃生(ものう)。幼少期に父親を惨殺された過去を持ち、それゆえに異常犯罪の解決に情熱を燃やしている人物だ。

 そんな桃生があるとき遭遇したのが、20歳の女子大生の殺人事件。切断された身体の部位が部屋中に隠されているという、陰惨な現場だ。犯行の残虐性から、桃生は「人間ではないなにかの仕業なのではないか」とため息をつく。一刻も早く真相を解明したい。しかし、手がかりが少なすぎる……。

 そこで藁をもすがる思いで桃生が訪ねたのは、「日本昔ばなし」を専攻する大学教授・太郎のもとだった。すると太郎は、信じられないような仮説を口にする。それは、「事件の解決には、プロファイリングよりも昔ばなしの方が役に立つ」というもの。

 太郎によれば、「日本昔ばなしは異常犯罪の記録」だという。そして、相次ぐ残虐な事件の犯人は「人ならざる者たち」だ、と。

 女子大生殺人事件を解決する手がかりとなるのは、「瓜子姫」。

昔々あるところに
瓜から生まれた美しい女子(おなご)がおりました
娘は機織(はたおり)が上手く気立ても良く村の人気者でした
しかし天邪鬼(あまのじゃく)によって娘は殺され
バラバラにされてしまいました

 事件は、この「瓜子姫」の物語どおりに起きているという。つまり、この場合の犯人は「天邪鬼」だ。

 太郎の話をにわかには信じられない桃生。しかし、彼には「人ならざる者たち」に心当たりがあった。それは幼少期の事件に関係する記憶だ。

 こうして太郎とタッグを組んだ桃生は、日本昔ばなしのストーリーを頼りに、女子大生殺人事件の解明へと乗り出す。

 単行本第1巻では「瓜子姫」と「子取り」にまつわる事件の顛末が描かれる。日本昔ばなしを現代に置き換えたそのストーリーに、きっと読者は魅了されることだろう。

 なによりも面白いのが、桃生たちが犯人と対峙したときの対処法だ。相手は「人ならざる者たち」。ときには力ではかなわないこともある。しかし、その対処法にも日本昔ばなしが役立つ。

 たとえば、「天邪鬼」の場合、弱点となるのは「人に命令されたことは絶対にできない」という特性だ。桃生たちはそれを利用し、撃退に成功する。

 誰もが知る日本昔ばなしをベースにしているからこそ、本作には「なるほど、そうきたか!」と唸らされる展開がちりばめられている。とはいえ、巧みなミスリードも用意されているため、先読みが難しい。「あの昔ばなしをなぞっているなら、こうなるはずだけど……」と予測しながら読み進めると、読書の楽しみが何倍にも膨らむだろう。

 ちなみに第2巻で描かれる事件のモチーフになるのは、「鶴の恩返し」。「部屋を覗いてはいけない」という約束を破った者がどうなってしまうのか。原典が非常に有名な作品であるからこそ、どんな事件として描かれるのかが楽しみだ。

文=五十嵐 大