短気な寅さんは、呑気に鈍行で旅をしていた──『男はつらいよ』50周年を鉄道とともに振り返る

エンタメ

2020/1/14

『旅と鉄道2020年増刊2月号寅さんの鉄道旅お帰り寅さん編』(旅と鉄道編集部/天夢人)

 戦後の邦画史に残る人気作、映画『男はつらいよ』シリーズはついに50周年を迎えた。残念ながら作品自体は主演の渥美清が1996年に亡くなったため、第49作『寅次郎ハイビスカスの花特別篇』(1997年公開)以来、22年の空白期間となっていた。しかし、2019年末に待望の新作『お帰り寅さん』が公開されたのだ。

『旅と鉄道2020年増刊2月号寅さんの鉄道旅お帰り寅さん編』(旅と鉄道編集部/天夢人)は、最新作公開に合わせて、シリーズ50年の歴史を鉄道旅の側面から振り返る1冊である。寅さんは日本全国を渡り歩くテキヤ稼業だが、その移動はほとんどが普通列車で、新幹線や飛行機にはそれぞれ1度しか乗っていない。なぜかといえば「速い乗り物が嫌い」だからである。そんな寅さんだけに、作中ではローカル線に揺られる姿がたびたび登場。歴史あるシリーズだけに古い作品では、まだ現役の蒸気機関車も登場している。

 本書は新作の紹介から始まる。まず寅さんの実家であり柴又帝釈天参道の団子屋だった「くるまや」がカフェとなり、寅さんの妹「さくら」と夫の「博」が跡を継いでいるのに往年のファンは驚くのでは。そして、さくらと博の息子である「満男」は小説家となり、中学3年生となる娘もいることが明かされる。22年の間に、物語の世界も時を経ていたのだ。その満男とかつての恋人「イズミ」が中心となって物語は進む。

 個人的には、寅さんとは浅からぬ仲の「リリー」が物語のカギを握っていることにも注目したい。一度は夫婦同然の仲となり、唯一の飛行機旅も、沖縄で倒れたリリーの見舞いに行くためのものだったほど。何より小生は、歴代マドンナの中でもリリーが一番「格好イイ」と推している。短気な寅さんをビシッと諫める姿に、小生は惚れぼれしたものだ。またリリーはシリーズ最多出演のマドンナ。寅さんとの鉄道旅も描かれており、本書はその第15作『寅次郎相合傘』を紹介している。

 寅さんは旅の途中で仕事に疲れたサラリーマンと意気投合し、一緒に青森から函館に向かう。今でこそ青函トンネルを北海道新幹線で潜り抜けるが、当時は青森駅~函館駅をつなぐ、国鉄が運営する「青函連絡船」と呼ばれる鉄道連絡船が存在していた。列車ごと船に乗り込むというもので、小生は未だに憧れ続けている。そうして向かった函館の屋台で、リリーと偶然出くわす寅さん。そして3人で函館本線に乗り込むのだが、昔ながらの4人掛けボックス席で、実に昭和の風情を感じさせる鉄道旅だ。

 もっとも、平穏な旅だけで物語は終わらず、途中でリリーと寅さんは仲違いし離ればなれになってしまう。とはいえ、また柴又で再会。そこで更に一悶着あるものの、ラストは雨の降る柴又駅へリリーを迎えに行き相合傘となるのは、シリーズ屈指の名場面としてファンに語り継がれている。

 本書ではそんな名場面を彩った柴又駅界隈も特集されている。駅前には、「フーテンの寅像」と「見送るさくら像」が、少し離れて向かい合っている姿がお馴染みだ。この駅舎自体も実に風情がある瓦葺き屋根で、1997年には関東の駅百選に選ばれたほど。そこから「柴又帝釈天」へ向かう参道の商店街に「くるまや」のモデルとなった「高木屋老舗」(高ははしごだか)も営業中。勿論、カフェにはなっておらず「お団子セット」600円が人気メニューである。

 ところで、柴又駅前の寅さん像だが、当初は寅さん像だけで、さくら像は2017年に建てられたもの。小生は、更に寅さんの隣へリリーの像も建ててあげたいと思っている。同じ思いのファンも少なからず居るらしいが、今回の新作を機にそんな機運が高まるのではないだろうか。でも、意地っ張りな寅さんのことだから「余計なことを!」と怒り出すかな。

文=犬山しんのすけ