古典部シリーズが電子書籍に! 「わたし、気になります」が気になります

小説・エッセイ

公開日:2012/5/31

氷菓

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 角川書店
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BOOK☆WALKER
著者名:米澤穂信 価格:462円

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何事にも積極的に関わろうとしない省エネ少年・折木奉太郎は、高校入学に際して旅行中の姉から「高校では古典部に入りなさい」という手紙を受け取る。言われたとおり入部したものの、そこで彼を待っていたのは奇妙な謎の数々…。人気作家・米澤穂信のデビュー作『氷菓』に始まる〈古典部シリーズ〉がアニメ化を機に電子書籍で登場だ。

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可愛らしいイラストの表紙、キャラの立った登場人物、高校を舞台にした青春もの、思わずメモってどこかで使いたくなるほどの機智に富んだアフォリズム…それらから「爽やか胸キュン日常ミステリのしゃれたライトノベル」を予想していると背負い投げを食らう。いや、もちろんそれは正しいのだが、それにプラスアルファがあるのが本書の魅力。そしてそのアルファはかなりのインパクトだ。

物語はまず、高校に入学し古典部に入った奉太郎が、同じ新入部員の千反田えるにせがまれて、校内で起きた謎を解くというパターンから始まる。いつの間にか密室になっていた教室、毎週決まって同じタイミングで借り出される本、あるはずの文集を「ない」と言い張る少年、などなど。このくだりは思わず膝を打ったりにやりとしたりの、エレガントな謎解きが堪能できる。しかし後半、ホータロー、える、そして彼らの友人のふくちゃんと摩耶花も加わって、物語は「33年前に校内で何が起きたのか」という最大の謎に迫っていく。現代の高校生に33年前という時代をどう理解させるのかと期待した読んだが、なるほど、まさにその「理解しづらい」ということが謎を解く鍵になっている。巧いなあ。

このあたりがまた、思いもかけず「社会派」なのだ。昔の社会のありようを、現代の高校生が現代の感覚で読み解き、理解しようとする。「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に」がモットーの省エネ少年ホータロー、「わたし、気になります」が十八番の名家のお嬢様える、人間データベースを自認するふくちゃん、活発で行動的な摩耶花といった〈イマドキのキャラ〉の高校生たちが過去の価値観について論じるくだりは、いっそシュールとも言える構図。この異種格闘技のような据わりの悪さがそのままテーマに直結し、最大の魅力になっているのだ。結果、本書は表紙や冒頭の設定からは想像できない読後感を残す。甘い甘い氷菓子が舌を凍らせる冷たさを持っているとの同じように。お勧めだ。

なお、『氷菓』はもともと2001年に角川スニーカー文庫から出版。そのときの表紙には、緑の中から上を見上げる高校生たちを描いたパステル調のイラストがあしらわれていた。上杉久代さんの絵だ。その後、あらためて角川文庫から出し直された際には、シリーズ4作とも学校の無人の風景写真が使われた。そして今回のお色直し。電子書籍ではシリーズ4作すべてに、このアニメ版の表紙が使われている。すでに写真表紙の紙の文庫を4冊揃えているファンは、アニメ表紙は電子書籍で揃えてコンプリートするという楽しみ方もできそうだ。


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ツールバーは画面を上下にフリップすれば出てくる。ただし栞やマーカーの機能がないのは残念。記録しておきたいほどシャレた台詞がたくさん出てくるので、せめて栞をつけて、インデックスバーに登録できるようになるといいのに