FBIもお手上げのスマホのセキュリティ。突然この世を去った故人の「デジタル遺品」をどう扱う?

社会

2020/1/27

『スマホの中身も「遺品」です デジタル相続入門(中公新書ラクレ)』(古田雄介/中央公論新社)

 もし、あなたの身内が突然死んでしまったら、遺族であるあなたはその人のスマホのロックを解除できるだろうか。スマホの中には、思い出の写真データなどが入っているかもしれない。遺品整理のときに、それらを無事に取り出すためのパスワードなどの情報を共有しているだろうか。

『スマホの中身も「遺品」です デジタル相続入門(中公新書ラクレ)』(古田雄介/中央公論新社)によると、故人が使っていたスマホの中身を確認するためにパスコードを予測したが、10回連続で入力をミスして初期化され、遺品が消去された、といった例は珍しくない。

 スマホやSNSの普及により、デジタル遺品が増えてきている。スマホやパソコン自体がデジタル遺品ではあるが、その中に蓄えられる写真やメールほか各種データ、インターネット上にあるフェイスブックやツイッターなどの個人ページなども、重要なデジタル遺品だ。特に、個人の重要な情報が集積されるスマホは、最重要のデジタル遺品だが、セキュリティの堅牢さから、図らずも遺品整理の段で問題を起こしやすい。

 スマホのセキュリティは、FBIでさえも突破できない。本書はiPhoneのセキュリティについて、次のようなエピソードを紹介している。

 2015年にカリフォルニア州の障害者支援福祉施設で、2人のテロリストが銃乱射事件を起こした。犯人らは銃撃戦の末、射殺されたが、事件の背後に見えるテロ組織を調査するため、犯人らの遺品であるiPhoneを調べようとした。しかし、その堅牢なロックは、FBIの精鋭部隊の技術力をもってしても解除できなかった、というのだ。FBIは製造元であるアップルにロック解除のためのソフトウェア提供を要請するも、アップルはiPhoneのセキュリティを下げる可能性を懸念して拒否。FBIとアップルが連邦裁判所で争う展開となるが、この隙にイスラエルのIT企業がロック解除方法を自社開発し、FBIに提供したことで、本件はとりあえずの終幕となる。

 つまり、私たち市井の人間が個人のスマホをロック解除できないからとメーカー、通信キャリア、ショップなどに相談しても、解決できないということだ。端末のロック解除技術をもつ民間企業は存在するが、本書によると国の法執行機関レベルに提供された実績しかない。ロック解除を検討してくれるデータ復旧会社があるにはあるが、100パーセントの解除保証ではなく、費用は成功報酬型で平均23万円と安くない。

 では、突然亡くなった故人の遺品整理をする際、私たちはそのスマホをどう扱ったらよいだろうか。先述のように、ログインチャレンジの回数が設定されている機種があるため、本書は「とりあえず3回程度試して無理なら一旦諦めて次に向かう」ことを勧めている。

 解除を試みる際、パスワードを推測する方法はいくつかある。王道はスマホを購入した際の契約書類をあたること。そこに記されているかもしれない何かしらのメモが、パスワードのヒントになるかもしれない。また、購入日につけた日記やシステム手帳の該当日にもメモが残されている可能性がある。本人や家族の誕生日、家族やペットの名前、好きな数字などもヒントになり得る。自動車のロックがかかったときの解除番号や、マイナンバーカードの認証用パスワードなどと共用している例も少なくない。

 日本では2018年に相続法が約40年ぶりに大幅改正されたが、デジタル遺品については議論が進んでいない。しかしながら、キャッシュレス決済の促進などデジタルと重要な資産との結びつきが国内で急速に高まっており、今後、デジタル遺品回りの環境が整っていくと見られる。いざ、というときは突然訪れることがある。本書を読んで、そのときの用意をしておくに越したことはない。

文=ルートつつみ