ヨシタケシンスケさん「大人がいうことばかりが全てじゃない」――MOE絵本屋さん大賞2019に、かこさとしさんの遺作も

文芸・カルチャー

更新日:2020/5/11

 子どもから大人まで広く人気を集める「絵本」の世界。毎年たくさんの新刊絵本が登場しますが、その中からベスト30を決定する恒例の年間絵本ランキング「第12回 MOE絵本屋さん大賞2019」(協力:朝日新聞東京本社メディアビジネス局)がいよいよ発表されました。絵本月刊誌『MOE』(白泉社)が主催するこのランキングは、全国3000人の絵本専門店・書店の児童書売り場担当者にアンケートを実施して新刊絵本30冊をセレクト。プロの目利きが選んだ2019年のベスト絵本とはどんな顔ぶれなのでしょう。先日、東京都内で開催された贈賞式の模様とともに、受賞者の喜びの声をお届けします。

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『MOE』編集長の門野 隆さんの挨拶から贈賞式はスタート。続いて「MOE絵本屋さん大賞」の受賞作品が発表され、白泉社の菅原弘文代表取締役社長がお祝いの言葉をおくりました。

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〈月刊『MOE』門野 隆編集長のご挨拶〉
「今年も絵本屋さん、書店員の皆様に素晴らしい作品を紹介していただきました。我々が『MOE』を編集する上でも、さらに読者の方々にとっても良き道しるべとなり、とても感謝しています。今年も素晴らしい絵本が揃いました。こうきたか! という新しい顔ぶれも多く、絵本の世界も移り変わっています」

〈白泉社 菅原弘文代表取締役社長の祝辞〉
「私は子どもの頃、本の扉をめくる瞬間が好きでした。そこから知らない世界で冒険をするのが好きでした。〈その先に何があるのか〉を想像するのが密かな楽しみだったのです。今でも無人島に持って行くなら絵本をぜひと思っています」

 続いて受賞作家さんにクリスタル楯が贈呈され、それぞれが個性豊かなスピーチで喜びと感謝を伝えました。

■第1位 『なまえのないねこ』(竹下文子:文、町田尚子:絵/小峰書店)

 靴屋さんのねこは、レオ。本屋さんのねこは、げんた。他のねこには名前があるのに、僕は名前をつけてもらったことがない。名前がほしい「ねこ」は街をぐるぐる回ります。本当に欲しかったものは、名前じゃなくて…。美しい絵も印象的な心がホッと温かくなる一冊。

「生まれて初めて手にした絵本はただの紙ではなく、私に世界を教えてくれるものでした。40年以上この仕事をしていますが、それからずっと『世界を作ろう』と思って作っています。この本は、私の関わった本というより〈ねこ〉だと思うんですね。だから家の近所の本屋さんでこの本を見つけたときは、「あ、いた!」と思ってこっそり帰りました。そんな〈ねこ〉をたくさんの優しい人に持ち帰ってもらえるとすごく嬉しいですね」(竹下文子)

「子どもが両親とこの本を読んだとき、きっと『メロンちゃんよかったね』と言うと思います。そうしたら、もし自分の子が猫を連れて帰ってきたときにすぐに『捨ててきなさい』とは言えなくて、猫の家族を探すとか何かすると思うんです。この本が猫を拾ってきてしまう優しい子どもたちや、出会いを待っているたくさんの猫たちに届くといいな、と思っています」(町田尚子)

■第2位 『ころべばいいのに』(ヨシタケシンスケ:作/ブロンズ新社)

 私の嫌いなあの人この人、みんなつまずいてころべばいいのに…子どもだけでなく、大人だって持ってしまうこんなイヤ〜な気分をどうすればいい? 「嫌い」をあれこれ考察したヨシタケ流撃退法なら、きっと前向きになれる!

「嫌いな人っているよね、それを考えるといやな気持ちになるよね、というのに共感が欲しかったんですが、これが非常に言い方が難しくて。以前、読んだ本に『やらなきゃいけないことが達成できなかったときは、自分の嫌いな存在が得すると思おう』というのがあって、そういうモチベーションの持ち方はいいなと思ったんですね。それをいつか大人向けに書くつもりだったんですが、そんなテーマは実は子どもにも必要だろうと思って、今回はそうした『方法論』の話にすることに落ち着きました」(ヨシタケシンスケ

■第3位 『たべものやさん しりとりたいかい かいさいします』(シゲタサヤカ:作/白泉社)

「しりとり大会」の優勝を目指して、商店街のおすし屋さんや八百屋さん、いろんなお店の食べ物たちが大はりきり。でも「ん」のつく食べ物は参加できずに、あるお店が大ピンチ!? 可愛い食べ物たちが次々に登場して、小さなお子さんでも楽しめる一冊。

「絵本作家になって10年目の記念すべき年にこのような賞をいただき、すごく嬉しいです。実はデビュー作(『まないたにりょうりをあげないこと』)でこの賞の新人賞3位をいただいていて、名もない作家の本でも書店員さんがしっかり読んで評価してくださったことが、励みになりました」(シゲタサヤカ)

■第4位 『それしか ないわけない でしょう』(ヨシタケシンスケ:作/白泉社)

 大人になったら未来に待っているのは大変なことばかり、ってお兄ちゃんは言うけれど、それって本当? おばあちゃんに相談したら、なんかそうでもないみたい。っていうか、それしかないわけないでしょう? 考え方一つで、きっと新しい未来が見えてくる。

「以前、別の仕事で『将来、老人ばかりになって子どもたちが大変なことになることを、お父さんお母さんにきちんと伝えたい。それを面白くしてほしい』と依頼されたことがあったのですが、僕は怖がらせるだけのことをやりたくなくて。予測と未来は別のもので、怖いデータはあるけれど、あなたと関係あるのかはわからないし、自分の未来の選択肢はたくさんあって、むしろ自分で付け加えてもいい。大人が言うことばかりが全てじゃないということを伝えられればという思いで作りました」(ヨシタケシンスケ

■第5位 『へいわとせんそう』(たにかわしゅんたろう:文、Noritake:絵/ブロンズ新社)

「へいわのボク」と「せんそうのボク」では、どんな違いがあるのだろうか。同じ人、同じもの、同じ場所、並べてみると見えてくる「へいわ」と「せんそう」の違い。シンプルな絵でわかりやすく、そんな二つの現実が実は紙一重だというのを教えてくれる。

「普段は広告の仕事をしていますが、いつも子どもが見ても不快にならないことを意識して描いています。2年前にこの本の話をいただいたときもその考え方で、谷川さんの文章にちゃんと絵を描けば完成すると考えていましたが、実際には谷川さんと編集者さん、デザイナーさんの4人で何度もやりとりをして、ページや言葉もどんどん変わっていきました。『戦争はダメ』とかいうのではなく、『ちゃんと伝えよう』という気持ちで描いた本です」(Noritake)