国宝級イケメンシェフ、美少年お手伝い、へっぽこ店員がお出迎え! 読めば必ず食べたくなる「奇跡のおにぎり」と感動の物語を召し上がれ

文芸・カルチャー

2020/2/1

『山の上のランチタイム』(高森美由紀/中央公論新社)

 山のふもとにある葵レストランを舞台に、へっぽこ店員・美玖(みく)が主人公をつとめる『山の上のランチタイム』(高森美由紀/中央公論新社)。イケメンシェフとお手伝いの美少年、そしてへっぽこ従業員が繰り広げる、おいしくて、あったかい連作短編小説集だ。

 葵レストランがあるのは、本州最北県にある農業が盛んなのどかな町。標高約500メートルの葵岳の登山口にある「コッヘル デル モタキッラ」がそれだ。地元の食材を使った、確かな味の創作料理と弁当が好評で、地域住民から親しみを込めて「葵レストラン」と呼ばれている。

 店のオーナー兼シェフの登磨(とうま)は身長180cmオーバーで、見目麗しいお顔立ち。美玖いわく「ルーブル美術館あたりに展示されていてもおかしくない」「調理姿は至宝。包丁さばきやフライパンを振る姿は国宝級で、布巾で手を拭う姿でさえフォトジェニック」な存在だ。さらに補足すると、常連のおじいさんから「活きのいい仔熊みたい」と評される美玖がぶつかっても、びくともしない逞しさが素敵である。

 お手伝いの美少年こと瑛太(えいた)は、登磨の甥で中学2年生。美玖のしでかすミスもぬかりなくフォローする、大人びた少年だ。ある出来事をきっかけに不登校となり、登磨の店を手伝っている。

 そして美玖は元柔道部で体力が取り柄の従業員。お釣りを間違えたり、物を壊したりなどは日常茶飯事のへっぽこ店員だ。

 お客の幼稚園児にサラダのひよこ豆を鼻の穴に押し込まれれば、「おしおきだっ」と鼻息で片一方ずつ豆をフっ飛ばして子どもを沸かすくらい底抜けに明るい美玖。ミスは多いが一生懸命、笑顔を絶やさないその姿は「見ていて微笑ましい」存在でもある。しかしその笑顔の裏には、重すぎる過去を背負っていた――。

 そんな3人が出迎えてくれる葵レストラン。訪れたお客さんたちはお腹も心も満たして、笑顔になって帰っていく。話が進むにつれ、登磨、瑛太、美玖それぞれも自身と向き合い、前を向く。その姿にとても励まされる作品である。

 本作を語るのに、グルメ要素も外せない。「採れたてタラの芽のサクサクフリット(店長のように上質な山菜をふわっと軽い天ぷらにしました)」「苺のごろごろシュークリーム(おすすめ! 店長のように極甘で爽やかな苺がたっぷり!)」など、登磨の作る料理は食欲をそそるものばかり! ちなみにカッコ書きはお客さんがイメージしやすいように、美玖がメニュー表に書き加えたものだ。

 華やかなメニューが並ぶなか、ぜひとも食べたくなるのが「奇跡のおにぎり」。オリーブオイルと塩がお米の甘さを引き立てる、ふっくらとしたシンプルな握り飯。なぜ“奇跡”なのか。その理由はぜひ本書で確かめて、ほっこりとしてほしい。

 葵レストランはのどかで爽やかな山のふもとにあって、国宝級に素敵な店長と、かわいいお手伝い、ぽんこつだけど誰より人の心に寄り添う店員がいる完ぺきなお店。本を開けば、あなたの“心のぺこぺこ”もきっと満たしてくれます。

※高森美由紀さんの「高」は「はしごだか」が正式表記です。

文=ひがしあや