目から味わう! マンガとチョコレートの“いい関係”を楽しむおすすめ本

マンガ

公開日:2020/2/14

 古今東西、物語に描かれたチョコレートを見てみると、人とチョコのただならぬ関係が見えてくる? 『ダ・ヴィンチ』でもおなじみ、マンガ読みのプロフェッショナル・門倉紫麻さんに、チョコレートが登場するマンガを教えてもらいました。

『からかい上手の高木さん』(1~12巻)

山本崇一朗 小学館ゲッサン少年サンデーC スペシャル 各591円(税別)

『からかい上手の高木さん』1巻(山本崇一朗/小学館)

 隣の席の女子・高木さんに、からかわれ続ける西片くん。ジュースをおごる・おごらないや腕相撲勝負、間接キスにまつわるものなど、中学生らしい初々しさと大人っぽさが絶妙に混じる、高木さんのからかいがたまらない。

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『からかい上手の高木さん』の思春期のバレンタインチョコ

 思春期を描くマンガではほぼ必ず登場するのがバレンタインのチョコレート。

 この作品では、バレンタインは絶好かつ最高のからかいチャンス……! そのためかバレンタインエピソードは、本編以外で描かれたものも含め12巻中で6回も収録されている。

 秀逸なのは、12巻収録のおまけマンガ。朝、下駄箱の前で「はい 義理チョコ」とチロルチョコらしきものを渡され、がっかりする西片くん。でも高木さんはこっそり本命チョコを仕込んでおり、下校時に西片くんがそれを発見! 誰からかはわからないが本命チョコだと焦り、高木さんに「イタズラだよ」と言い訳する西片くんに、「それ 本命だと思うよ」とさらりと返す高木さん……! いじわるにはならない、ときめき溢れる「からかい」に胸がキュンとなる。

 チョコレートの描写は、本命チョコ=ハート形の箱にリボン、というアイコン的な外側のみ。思春期男女にとってバレンタインチョコは中身ではなく「渡す」「もらう」ことこそが最重要事項であることがよくわかる。

『パティスリーMON』(全5巻)

「完結編」は電子版のみ

『パティスリーMON』1巻(きら/集英社)

 お菓子作りが大好きなオトメは片思いの相手・土屋が勤めるパティスリーで働くことになるが、シェフの大門は気難しそうで……。ヒビ割れがしっかり描かれたガトーショコラの質感もたまりません。

『パティスリーMON』のチョコレートで不意打ち

 勤務先の洋菓子店で閉店後、尊敬するシェフ・大門から「ショコラバニーユ」の作り方を習うことになった見習いのオトメ。教わった後、洗い物をしていると、余ったチョコを「食っちゃえ」と口に入れてくれた大門。でもその指が、オトメの唇に触れていて……。

 本作の軸をなすのは、どんな仕事にも共通するプロフェッショナリズム(オトメが大きな鍋を棚から下ろせず「手貸してください!」と声をあげたことを「ちゃんと助けを求められる」と大門に仕事人として評価されるシーンは最高!)。だからこのシーンも、単なる職場でのいちゃいちゃシーンではない。あくまでもオトメが道具を片付けるという自分の仕事に取り組んでいて、両手がふさがっているから……という〝正当な理由〟がある(大門の表情は意味深だが!)。もとは恋心(大門ではない人への)から入った道だが、プロでもありたいと真剣だからこそ、オトメにとってこれは不意打ちであり、不意打ちゆえに大門への恋心を自覚する決定打になる。この時、彼女の口に、そして胸に、じわっと広がったチョコレートの味を想像するとたまらない気持ちに……!

 と言いつつ「完結編」では、閉店後の楽しいいちゃいちゃもあります!

『メタモルフォーゼの縁側』(1~3巻)

『メタモルフォーゼの縁側』1巻(鶴谷香央理/KADOKAWA)

 偶然BLにハマったおばあちゃん・雪と、雪がBLを買いにいく書店バイトの高校生・うらら。一見違う世界にいる2人が、手探りで友情を深めていく姿に胸を打たれる。「このマンガがすごい!2019」オンナ編第1位。

『メタモルフォーゼの縁側』の女の友情とチョコレート

 大好きなマンガの話に興じる中で、よくおやつを口にする2人。雪の家では、かりんとうなどいかにも〝おばあちゃんち風〟なものも登場するが、2巻にはチョコレートが2度登場する。1度目はカフェで〝チョコクロ〟(らしきもの)を買ったうららを見て「やっぱり私も食べよ!」といそいそと買いに行くシーン(左コマ)。

 2度目は、巻末のおまけマンガでチョコレートケーキを食べるシーン(右上コマ)。同人誌即売会で人ごみの中を歩きまわった2人は、帰りにカフェへ。「フーやれやれ」と言いつつ、疲れたとは言わない雪。同人誌即売会の感想を「ものすごいエネルギー」「負けてられないぞ!って思ったな」と述べ、「景気づけにチョコレートパフェでも食べたいところだけど 胸が悪くなっちゃうからチョコレートケーキで我慢するわ」と宣言、負けん気の強さをのぞかせる(そういえば、ソフトクリームonデニッシュパンの〝シロノワール〟風も雪はふつうサイズ(巨大)を無理矢理食べ切っていた!)。

 うららにとって雪は、守るべきおばあさんではなく、頼もしい女友だちなのだということが、読者に、そしてうららに、また一段深くしみてくる素敵なエピソード。

【プロフィール】
かどくら・しま●1970年神奈川県生まれ。2003年よりフリーライターに。マンガに関する記事をメインに活動。15~17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員。17~18年度日本漫画家協会賞選考委員。著書に『マンガ脳の鍛えかた』『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『2.5次元のトップランナーたち』など。
ブログ http://blog.livedoor.jp/kadokurashima/