滅亡寸前の世界で「一日三食絶対食べる」ために働く――。ヘタレ男子としっかり者の少女が愛おしい『一日三食絶対食べたい』。

マンガ

公開日:2020/2/23

『一日三食絶対食べたい』1巻(久野田ショウ/講談社)

 働く理由は色々あれど、「ご飯を食べるため」という理由はかなり大きなウエイトを占めていると思う。当然だが、人は食べなければ生きていけない。しかも私はワガママなので、できる限り美味しくて栄養のあるものを調理してゆっくりと堪能したいし、週末は外食だって楽しみたい。人間を30年以上やっていても、食への欲求はまだまだ尽きることがなく、三度三度の食事はまさに「生きる原動力」となっている。

 久野田ショウ先生の『一日三食絶対食べたい』(講談社)は、「一日三食絶対食べる」ために、嫌々ながらも懸命に働く、ヘタレ男子が登場するマンガだ。本書は、環境問題が悪化し、突如として世界中を覆うような洪水により、あらゆる文明が水没…その後、氷河期を迎えた遠くない未来が舞台だ。生き残った少数の人類は、マイナス45度の滅亡寸前の世界で、自給自足の生活を強いられている。

 物語は、家族を失ったヘタレで気の弱い男子・ユキ(23歳くらい)と、大混乱の最中に偶然彼と出会い、家族になった同じ境遇のしっかり者の少女・リッカ(11歳くらい)との暮らしが描かれる。ライフライン維持のため、全員働かなければならない世界。リッカはお針子の仕事を、ユキは、新たな仕事をするために面接に向かうのだが、そこでも「3食をずっと食べ続けたいのでホントーにヤなんですけど働くしかないんで来ました」と正直に吐露してしまう。しかし無事に、氷の中に埋まっている前時代のものを探す「外」での仕事が決まる。マイナス45度の雪原で、雪崩・凍傷の危険もある場所での過酷な作業。スギタさんという災害前は医学部に通う学生だった無表情の先輩に助けられながら、ユキは「病弱なリッカにおいしいものを食べてほしい」と、徐々に仕事に真剣に向き合うようになるのだが――!?

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 本書は、滅亡寸前の大変な世界が舞台だが、その中でもゆるりと生きる人々の暮らしが丁寧に描かれており、優しい世界観にとても癒された。特に、仕事の初日に泣きながら「あのオレメンタルすっげぇ弱いんで仕事中怒らないでくださいね」と先輩に訴えるヘタレ男子のユキは、まるで自分を見ているようで、終始共感してしまった。

 だがユキは、ケガをしながらも、「外」で貴重なエンドウ豆を発見し、貴重な卵とケチャップを使い、リッカに「エンドウ豆たっぷりのオムライス」を作ったことで、仕事への意識が変わっていく。リッカの喜ぶ顔が見れたのはもちろんのこと、ユキが頑張って働いたことにより、エンドウが市場に出回り、人々の暮らしが豊かになっていくことを目撃したことで、仕事へのやりがいを見出すのだ。

「世界が滅亡寸前でも、大切な人と一緒にご飯を食べたい」というシンプルな欲求を大切にするユキ。まず自分と大切な家族をお腹いっぱいにして、そうして、周囲の人々も笑顔にしていくユキの仕事ぶりを見て、「働く」ことの基本的な意味をもう一度考えるきっかけになった。

 ほんの少しずつ発展していく滅亡寸前の社会や、ユキの周りの優しい先輩、そしていつも温かな言葉でユキを励ます優しいリッカ、何もかもが愛おしい、胸がぎゅっとなるマンガである。

文=さゆ