シャバから隔離された“刑務所”が舞台。警察小説の名手、横山秀夫氏が称賛! 濃厚な人間ドラマを描く連作ミステリー『看守の流儀』

文芸・カルチャー

2020/2/22

『看守の流儀』(城山真一/宝島社)

 かつてアメリカでおこなわれた「スタンフォード監獄実験」をご存じだろうか。心身ともに健康な被験者を看守役と囚人役に分け、実際の刑務所に近い設備でそれぞれの役割を演じながら2週間過ごしてもらう、という有名な心理実験だ。

 この実験では被験者それぞれの性格は関係なく、与えられた役割に合った行動が見られるようになった。そして、閉鎖的な空間で権力を得た看守役のほうが、誰に指示をされるでもなく、積極的に囚人役を罰するようになったという。精神を病む囚人役の被験者があらわれ、この実験は6日で中止となっている――。

 これはあくまで実験の話だ。しかし懲役に服する囚人(受刑者)と、それを監視する看守(刑務官)に分けられた閉鎖的な空間は現実にある。はたして刑務所とは、一体どれほど恐ろしい世界なのだろう…?

『看守の流儀』(城山真一/宝島社)は、シャバ(外の自由な世界)から隔離された金沢の刑務所を舞台に、受刑者と看守の濃密な人間模様を描いた連作ミステリーだ。本書の帯には作家で警察小説ブームの立役者、横山秀夫氏の「いやぁ、これは久しぶりのドストライクだった」という感想コメントが添えられている。

 全5話からなる本書。第1話「ヨンピン」では仮出所した模範囚が失踪し、第2話「Gとれ」では真面目に服役していたはずの受刑者に、ある事件の関与が浮上する――。各話につけられた耳慣れないタイトルは、刑務所で使われる業界用語だ。ヨンピンは服役期間の残り4分の1を残して仮出所する模範囚のこと、Gとれとは刑務所内で秘密裏におこなわれる更生プログラムのことで、暴力団から足を洗わせる、という意味を持つ。

 どの話も看守、すなわち刑務官たちの心はかき乱される。しかしその心中をのぞき見ると、謎に包まれた刑務所のおどろおどろしいイメージはいい意味で裏返る。

 ときに父親のように、先生のように、受刑者たちに接する刑務官たち。彼らの更生を信じ、問題が起これば真剣に悩む。刑務官たちは何にも動じない冷たい集団のようで、内側にはとにかく熱いものを秘めているのだ。

 また、本作は個に焦点を当てた人間ドラマである一方で、刑務所という“組織”の話でもある。第3話「レッドゾーン」では、立場の違う刑務官同士の対立が描かれる。レッドゾーンとは刑務所にある介護棟のことを指し、まともな日常生活ができない高齢の受刑者が大半を占める場所だ。受刑者を“介護”する担当刑務官の姿は、本作でいちばん強烈かもしれない。

 もちろん、本書は小説(フィクション)だ。現実ではどれだけ刑務官が真剣に向き合っても、更生しない受刑者はいるだろうし、そもそもすべての刑務官が本作のように熱いとも限らない。

 しかしすべてがフィクションだとは思えない緻密さが、本作にはある。巻末に並んだ参考文献の数も、それを裏付けているだろう。第4話「ガラ受け」では余命宣告を受けた受刑者とその家族が、第5話「お礼参り」では再犯リスクの高い元受刑者を監視する刑事と看守の姿が描かれる。

 やるせなさすら漂う人間模様は、やはりシャバとは質が違う。

文=ひがしあや