わが子がしわくちゃの異物に見える…「育てられない母親」が増える理由。虐待と育児困難の実態

社会

2020/2/23

『育てられない母親たち』(石井光太/祥伝社)

 テレビで凄惨な児童虐待ニュースを見かけることが絶えない。そうした報道を目にすると、私たち第三者は加害した保護者を批判し、行政や児童相談所、学校側の対応にも非難の目を向ける。だが、『育てられない母親たち』(石井光太/祥伝社)を読んで育児困難に至る背景を知ると、虐待事件の捉え方が変わるだろう。なぜなら、虐待や育児困難はいくつもの問題が重なり合って起きるものだからだ。
 

 本書では24の具体的事例を通し、家族がどんな問題を抱え、問題がどのように絡み合って育児困難や虐待に繋がってしまったのかを説明する。本稿ではその中から、自身のことを「母親になっちゃいけないタイプ」と表した富永美桜さんの人生を振り返ってみたい。

虐待やDVは連鎖する?

「母性」は、女性ならば誰もが持っているものだと思われがち。だが、母性は先天的なものではなく後天的に作り上げられるものとされている。成長するうえで幼い頃に親としっかり愛着形成をしたり、家庭で安心感を抱いたりした経験が重要だと考えられているのだ。よって、幼少期の家庭環境が劣悪だったり、親から愛情を受けていなかったりすると、母性は育ちにくい傾向があり、そのため子育てに困難が生じるケースもあるという。美桜さんもこのタイプだった。

 美桜さんが育った家庭では、彼女が生後2カ月の頃、父親が脳出血で倒れ、体が不自由に。母親は、病気のショックでアル中となった父親を介護しながらパートで家計を支えた。

 やがて、父親が亡くなると母親はうつ病のような状態になって引きこもり、生活保護を受けながら大量の薬を服用し始める。美桜さんは小学生の頃から家事をこなし、毎日母親から暴言を浴びせられ続けた。

息子が「しわくちゃの異物」にしか見えなかった…

 そんな環境にいた美桜さんはいつしかリストカットをし始めるようになり、ある日、警察に補導されたことを機に児童養護施設へ。その後、高校を卒業すると風俗の世界に居場所を見いだし、24歳で初めての恋を経験。相手の男性と同棲し、やがて妊娠した。子どもを育てる自信が持てず人工中絶手術も考えたが、彼が拒否。お互いの意見が噛みあわないうちに、中絶可能な期間が過ぎてしまった。

 パニックになった美桜さんは薬の過剰摂取をして流産をさせたいと彼に漏らすようになり、何カ月もそのやり取りを繰り返した結果、相手の男性は妊娠している彼女をアパートに残し無責任にも出て行ってしまったという。

 産まれた男の子を美桜さんは“しわくちゃの異物”としか思えず、何をしてもかわいいと感じられなかった。しかし、自分が幼少期に辛い経験をしたからこそ、子どもに手を上げることだけはしてはいけないと考えていた。

 だが、ある日ついに感情が爆発し、息子に手を上げ暴言を吐いてしまった。これでは母親と同じ人間になってしまう――そう思った美桜さんは、息子を里子に出すことを決意した。市役所の担当者に告げたという赤裸々な本音に胸が痛む。

「私は絶対にこの子を育てられません。虐待してしまうと思います。そうなる前に、引き取ってください」

 親になることへの葛藤が滲み出たこの言葉を聞くと、メディアで流される児童虐待事件の加害親も別の視点からみればセーフティネットからあぶれてしまった被害者だったのではないかと思えてならない。

親が発信するSOSを社会はどう支援すべき?

 すべての事件にこうした背景があるとは限らないが、美桜さんのように複数の原因が複雑に絡み合うと、育児困難や虐待が起こる可能性はある。ここで紹介したケース以外にも、さまざまな原因や問題が本書では紹介されている。

 本書内で著者の石井氏は当事者の叫びをすくいあげるだけでなく、支援者として尽力する人々の生の声や現場の課題も丁寧に取り上げ、社会病理の構造を浮き彫りにしている。育児困難や虐待の裏には、一側面だけでの支援では解決できない問題が潜んでいるのだ。

 本書には、ニュースでは語られない生々しい“24の叫び”が収録されている。どうすれば子どもたちを救えるのか? その問いに対する自分なりの答えを、この本を通じて見つけたい。

文=古川諭香