賢い人ほど騙される? この本を読むとき、アナタはすでにバイアスにかかっている!

ビジネス

2020/2/28

『MBA心理戦術101 なぜ「できる人」の言うことを聞いてしまうのか』(グロービス、嶋田毅/文藝春秋)

 新型コロナウイルスの感染者が国内でも報告され、ドラッグストアーなどの店頭ではマスクの他に、消毒用アルコールや空間除菌といった商品が瞬く間に売り切れとなった。しかし、公的機関や医療関係者からは、マスクによる予防効果は限定的で、コロナウイルスの性質を鑑みれば石鹸での手洗いで不活性化することが可能とアナウンスされており、空間除菌にいたっては消費者庁が所管する国民生活センターが、効果と安全性ともに現状では分からないと公表している。にもかかわらず、これらの商品の購入へと消費者を走らせてしまったのは何なのか。経営学と絡めて紹介されることの多い「心理バイアス」をまとめた、『MBA心理戦術101 なぜ「できる人」の言うことを聞いてしまうのか』(グロービス、嶋田毅/文藝春秋)から、関係しそうな項目をピックアップしてみた。

プライミング効果

【定義】先行情報に引っ張られて物事を考えてしまう傾向

 人間は純粋にゼロベースで考えるのではなく、直前に与えられた情報の影響を受けやすい。特にアンケートなどで「欲しい答え」を誘導するために用いられ、「最終的に信用できる媒体はA新聞社である」という回答が多い結論を得たいとすれば、設問にB新聞社やネットで誤報があったことを引き合いに「誤報について知っていますか?」といった質問を混ぜておくと、目的の回答率を上げられるという。新型コロナウイルスの件で云えば、中国でマスクが不足している報道と、消毒作業をしている映像のインパクトが人々に影響したのかもしれない。

例外の過大視

【定義】散布図の特に外れた異常値に過度に引っ張られて間違った結論を引き出す傾向

 これはいわば、前提は間違いではなくても結論が間違っているケースを重視してしまうことだ。「大学に行っても高卒よりも仕事ができない人はいくらでもいるから、大学に行く意味はない」という言説を例としているように、一部の極端な例は参考の1つであって全体に当てはめることはできない。必要以上に情報を集めて意思決定ができなくなる「情報バイアス」や、複雑を嫌う人の本能が物事を簡単に考えようとする「単純化本能」など、別のバイアスや心理とも結びつきやすい特徴がある。

アクションバイアス

【定義】何もしていないように外から見えることを嫌い、本来必要のない行為をしてしまうこと

 サッカーの試合のペナルティーキック(PK)時に、ゴールキーパーが左右のどちらかに飛んでボールを止めるのを見たことがあるが、本書によれば「最もキーパーにとって良い動きは、左右に飛ばず、真ん中で待つ」という調査結果があるという。拙速に動くのではなく状況を見極めるのが大事で、「動けばいいわけではない」ということだが、それに耐えられないのが人間の心理。また、危険が差し迫っていても「異常やトラブルを過小評価する傾向」の「正常性バイアス」があるから、それもまた気をつけなければなるまい。

 こうして本書を読んでみると、冒頭で書いていることは私が「権威ある人の発言に従ってしまう傾向」を示しているし、様々なバイアスが示されることで「選択肢が多いと、選択肢が少ない場合よりも意思決定が難しくなる傾向」の「ジャムの法則」に陥りそうな感覚になる。

 本書を、「他者を動かす武器」とするか「他者からの働きかけに対して警戒心」を養うために使うか、いずれにしても「自分の意思決定の質を上げる」ために参考にしてみると良いだろう。新型コロナウイルスに関連した買い占めについては、花粉症などを現に発症している人にこそマスクが届いてほしいし、消毒用アルコールはインスリン注射などで自宅治療を余儀なくされている人に渡るようにしてもらいたいと切に願う。

文=清水銀嶺