婚約者のため「処女膜再生術」を受ける経験人数約80人の女性…美容外科を舞台に、人々の際限のない欲望と人生が変わる様を描くマンガ

マンガ

公開日:2020/3/1

『Dr.クインチ』1巻(鈴川恵康/集英社)

 昔に比べて、ぐんと身近になった印象のある美容整形。だが、身体にメスを入れることの心理的障壁や、金銭的な負担などは皆無ではないし、内面に抱き続けたコンプレックスが、整形することで全て解決できるかと問われれば、難しいこともあるだろう。整形するには、現代でもやはりそれなりのリスクや覚悟は必要だ。

『グランドジャンプ』で連載中の鈴川恵康先生の『Dr.クインチ』(集英社)は、患者の外見を完璧に整えるだけでなく、心をも癒す天才美容外科医のマンガだ。

 新宿にある藤美容クリニックに勤務するゴンドーこと権藤弓一郎は、神がかり的な天才的施術をする執刀医。ただ、かなりの毒舌で、団子鼻がコンプレックスだという女子大生に「鼻だけじゃねぇだろ!?」とすかさず突っ込み、「まず目頭切開で鏡をよ~く見えるようにしなきゃな!! あとエラ呼吸しないならエラ骨も切除だな!!」と、歯に衣着せぬ発言をする。そして、重い過去やさまざまな理由で美容整形を望む、顧客の計り知れない欲望を愛し、

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「その渇き…引き受けた!」

と、決めゼリフを放ったあと、超一流の手術を行うのだ。

 BL好きの美人院長・恵里子と、美しいゲイの麻酔医・ハヤト、そして毒舌のゴンドーが働く藤美容クリニックには、本物の胸に近い豊胸を求める編集者や障がい者専門の風俗デリバリーで働く、顔に傷のある女性など、日々さまざまな患者が訪れる。

 中でも印象に残ったのは、お金持ちの婚約者に処女であることを求められたため、処女膜再生術を希望した24歳のミクの話。彼女の本当の経験人数は約80人。院長の恵里子は婚約者に正直に打ち明けることを勧め、ゴンドーは、処女膜の定義は実は微妙で、誰しもが喪失時に出血するわけではないことを伝える。だが、「大事なのは出血するかどうかなの!!」と必死に訴えるミクの心の渇きを気に入り、手術は行われるが――!?

 この物語は、予想の斜め上を行くラストが待っている。手術が30分ほどで終わり、2週間程度で完璧な処女膜が完成することにも驚嘆したが、ゴンドーがオペ中に、「完璧な美人」になるため、他の箇所のメンテナンスをおススメした理由に衝撃を受けた。人々の際限なくあふれる欲望を真正面から受け止め、外見だけでなく内側から顧客の人生を変えて行く彼ならではのやり方に読者は終始息を呑むことになるだろう。

 本作は、美容整形のリスクや回復期間(ダウンタイム)の地獄のような過酷さはもちろん、周囲の目ではなく、自分自身が整形で満たされることの大切さや、外側だけでなく、内側を整えることの大切さもたっぷりと描いている。「美容外科は顧客の人生を左右する医療だ」と真剣なまなざしで訴えるゴンドーに惚れ惚れするし、自らの心の渇きから目を逸らさず、人生ときちんと向き合えるきっかけをくれるマンガでもある。

 毒舌だが心優しい天才美容外科医の活躍をぜひ堪能してみてほしい。

文=さゆ