実在するスパイ道具が映画以上に凄い!? 殺人傘や葉巻型ピストル…リアルなスパイの作法

社会

更新日:2020/3/2

『近現代 スパイの作法』(落合浩太郎:監修/ジー・ビー)

 ド派手なカーチェイスや激しい銃撃戦を繰り広げてミッションを達成する――映画や小説の中に描かれている「スパイ」はスリリングな活躍を見せ、私たちをワクワクさせる存在だ。だが、そこで描かれているのはあくまでもフィクション。実在するスパイの生活習慣や諜報技術は、ベールに包まれている。『近現代 スパイの作法』(落合浩太郎:監修/ジー・ビー)はそんなベールをはがし、“リアルなスパイ事情”を白日の下にさらす興味深い1冊だ。
 
 本書では、スパイが使用する特殊武器や護身術、連絡手段など、あらゆる角度から諜報活動の実情を暴露。知ると「小説より奇なり」と思えるスパイの作法に、あなたもド肝を抜かれるはずだ。

相手を毒殺する殺人傘や、周囲に溶け込める光学迷彩

 そもそもスパイとは、諜報活動に従事する特殊工作員の総称。現代のスパイはケース・オフィサー(工作担当者)とエージェント(諜報員)の2種に大別されるという。
 
 ケース・オフィサーとは、情報機関の内部職員。公的な身分の保証があり、外務省などの国家機関に籍を持つ形で各国の大使館などに派遣され、そこで通常業務をこなしながらスパイ活動をする。対して、エージェントはケース・オフィサーの指示を受けて情報収集や秘密工作を行う専門スタッフだ。

 スパイにとって大切なのは、与えられた任務を着実に遂行すること。そのためにスパイ活動では私たちが想像もできないような特殊武器が使われている。

advertisement

 例えば、20世紀初頭から中頃に使用されていたのが、一見日用品にしか見えない特殊武器の数々。中でも驚かされるのは「殺人傘」だ。これは、ソ連国家保安委員会(KGB)が制作したといわれている武器のひとつ。柄にある引き金を引くと、毒入りの小弾丸が発射される。傘型のため射撃の威力は低いが、毒で相手を確実に殺すことができたという。

 また、葉巻にしか見えない「葉巻型ピストル」は緊急時にも大活躍。殺傷能力は低く、弾丸は1発のみしか発射できなかったが、発射時の爆発音とガスの煙で敵をひるませることができた。

 このように身近な日用品に見立てた特殊武器が活躍する一方、20世紀終盤から21世紀以降になると、SF映画も顔負けのハイテク技術が用いられるようになってきた。特に衝撃を与えるのが、最新テクノロジーを駆使した「光学迷彩」。これは、隠密を要するスパイ活動には不可欠で、物体を光学的にカモフラージュさせる、まるで魔法のような技術。スクリーンに見立てた人の体に背景を映写することで、背景に溶け込んで姿を隠すカメレオンのような偽装が可能になる。
 
 なお、光学迷彩に関しては視覚的に透過させるものや、レーダーにも探知されにくいステルス技術も開発されているという。スパイが使う特殊武器は、最先端のノウハウを取り入れ日々進化しているのだ。

スパイ道具の隠し場所は意外なところ!

 どんなに優れたスパイ道具を持っていても、敵にそれを見つかってしまっては無意味。当然、捕まって没収されてしまう。そんな危機的状況をかいくぐるため、スパイが考えたハイパー隠匿テクニックは、シリコンで身体に「偽物の傷痕」を作ること。シリコン製の傷跡はポケット状になっており、その中にスパイ道具を隠せるようになっている。この自然な隠し方なら、絆創膏以上に敵の目を欺ける可能性が高くなるのだ。

 特殊な武器を使いこなすだけでなく、最悪の事態に対応できる自衛術も身に着けている一流のスパイたち。その実態や心得を知ると、スパイという職業に、より深く興味が湧いてくる。

 本書ではこの他にも、アメリカの情報機関CIAの実情を、映画や小説の“スパイあるあるネタ”と比較したり、世界中に活躍が知られてしまったスパイを紹介したりしているので、こちらも要チェック。
 
 フィクションの世界では決して描かれない、リアルなスパイの姿がここにある。

文=古川諭香