ラスト5分に秘められた3年間の想い――『おっさんずラブ』ロスの隙間を埋めてくれる公式ブック

エンタメ

2020/3/5

『土曜ナイトドラマ「おっさんずラブ -in the sky-」公式ブック』(テレビ朝日:監修/文藝春秋)

 誰にでも優しいが空回りしがちなポンコツ独身ダメ男・春田創一(田中圭)は、35歳の新人CAとして天空ピーチエアラインに入社。憧れのグレートキャプテンこと機長の黒澤武蔵(吉田鋼太郎)から告白されたことをきっかけに、副操縦士の成瀬竜(千葉雄大)や、航空整備士・四宮要(戸次重幸)たちを巻き込んで、おっさん同士の恋愛が展開していく。

 2019年12月に最終回を迎えた『おっさんずラブ -in the sky-』は、私たちファンの心に温かい感動を残してくれた。今年1月には文藝春秋から公式ブックが発売。キャストインタビューや名場面・名ゼリフ集、各話の詳細ストーリーなど、作品の魅力を多角的に伝えて『おっさんずラブ』ロスの隙間を埋めてくれる。

 かゆいところに手が届く内容で、作品に携わった人たちの愛情が隅々まで感じられ、特に、オリジナルストーリーの宿命として様々な意見が飛び交った最終回の内容に必然の流れがあったことがわかって感激してしまった。

「いつから好きになったのか」を存在させないリアリティ

「春田×武蔵エンド」の方向性は最初から決まっていたそうだ。その理由として、「ドラマの大きな柱になってきた2人が最後は向き合う話にしたかった」と脚本の徳尾浩司氏が、「前作の連ドラで吉田(鋼太郎)さんのクランクアップの時にだけ号泣していた(田中)圭さんの姿が思い浮かんで。ああいう愛の形だったら結末として描ける気がした」とプロデューサーの貴島彩理氏が、伝えている。

 それぞれが難しさを感じながらこの設定に向き合うなか、誰よりも戸惑いを感じていたのは春田役の田中圭かもしれない。春田は成瀬に想いを伝えながらも、いつ武蔵を好きになったのか? 春田が、好きな人がコロコロと変わるようなチープな人物ではないことは、最終回を担当した瑠東東一郎監督が語る通りなのだ。

 田中のインタビューによれば、2016年の単発ドラマからはじまり、2018年のシーズン1、2019年夏公開の劇場版、そして同年冬のシーズン2と4作にわたって製作された本作において、武蔵への想いは3年前からすでに始まっていた。

 ヘリポートで武蔵と向き合ったとき、「好き」という気持ちが「いつから」ではなくて、ずっと鋼太郎さんとやってきて鋼太郎さんを好きな気持ちと重なって、4作全部の春田と武蔵の関係性が涙と一緒にこみ上げてきました。

 なかなか春田の気持ちが見えずに悩んでいた田中は、ラストシーン前日の夜、今回の撮影で初めて吉田を呼び出して食事に行ったそうだ。その話し合いを経て、「ラスボスに挑むような気持ち」で当日の撮影に臨んだ結果、理屈ではない「好き」という気持ちが溢れ出てきたという。瑠東監督はこの時の現場を、「春田と武蔵が本当にすごくて、誰もが心奪われ、ただ圧倒された」と振り返っている。

 その熱気が映像からも十分に伝わってきたことを、多くの視聴者は感じていると思う。心のどこかに引っかかっていた気持ちが、全部チャラになったような気がした約5分間のラストシーン。この場面をもって、『おっさんずラブ』が最初から表現したかった“人間愛”という集大成にたどり着いたことを知り、一ファンとしても救われる想いだった。

すべての名場面に役者の生身の気持ちが通っていた

 最終回に限らず、『おっさんずラブ』では、現場で生まれる役者の生身の気持ちを大切にしながら撮影された。だからこそ生み出された名場面も多いことが本書で明かされている。

 6話では、成瀬役の千葉が、四宮を「押し倒す」展開に難しさを感じていたという。来るもの拒まず去るもの追わずだった成瀬が、なぜそのような行動に出たのか。千葉は、前に雨の中で春田が抱きしめてくれたのがうれしかったから、頑張ってそれをやろうとしたのではないか、と解釈したそうだ。そして、「どうしてあげたらいいかわかんないんだもん」という、台本にはない成瀬の言葉が生まれた。

 四宮役の戸次は、そんな千葉の芝居のおかげで、成瀬の想いを断るときの罪悪感がものすごく、その気持ちを出すだけで芝居が成立した、と語っている。

 ちなみに戸次は、春田の“お試し一週間”(6話)についても熱く語っている。7日目で2人が手をつなぐ流れは台本にはなく、この場面は戸次の希望によって生まれていた。その切なくて尊すぎるエピソードを、ぜひ本書で読んでみてほしい。ほかに、7話で春田が成瀬の手をにぎってポケットに入れるシーンなどのエピソードも超必読だ。

しっかりと愛情を返してもらえたことを確信できた公式ブック

 武蔵役・吉田鋼太郎のインタビューでは、春田を深く愛する者の象徴として、その姿勢を強く示しながら、他のキャストの芝居を丁寧に見つめて受け止めてきたことが伝わってきた。新メンバーとなった戸次や千葉には「どれだけ激しく春田を好きになるかという見本は見せておかねば」と熱い想いをぶつけ、全身全霊で向き合ってくる役者には「さらに返してやりたい」と受け止めた。中でも、田中に対しては特別な想いがあったようだ。

 春田への感情の高まりなど、体も感情も全部「さあ『おっさんずラブ』をやるぞ」と高めておかないと置いてきぼりにされ、いいシーンを作れなくなるんです。それを田中圭もやっていますし、とくに圭とやるときは気合をいれないとダメでした。

 意外なことに、現場にはものすごい緊張感があったことを明かしている。「慣れ親しんだ現場でリラックスした演技ができる」のは確かだが、それだけではダメで、役者があるところまで気持ちを高めて「これでどうだ!」とぶつけることで、現場の空気が出来上がっていったという。それは「圭と演じるからできたこと」だと語っている。

 このドラマの肝心要のギャグシーンについても、「気持ちに寄り添うことができないと『おっさんずラブ』じゃなくなる」と語っており、あの振り切った芝居は武蔵の気持ちが強烈に乗っかっているから面白いのだ、と納得できるのではないだろうか。吉田鋼太郎の存在があらゆる意味で本作における潤滑油になっていたのだと感じられるインタビューだった。

 本書のあちらこちらで出てくる「ついにゴール」「3年間が終わった」という言葉には正直寂しさを感じるが、本書を通して、やっぱりこの作品が好きだと実感できたし、さらに愛情が増したと感じている。春田が武蔵のことを語った機内アナウンスに、“キャプテンにたくさん愛された分、自分たちも誰かを愛したい”という言葉があるが、作品を愛した分、しっかりと愛情を返してもらえたことを確信できる一冊だった。ありがとう、おっさんずラブ!! 全力でおすすめしたい公式ブックである。

文=麻布たぬ