「ドラえもんを本気でつくる!」量産型ドラえもんの実現がもたらす新しい幸福の方法論

ビジネス

公開日:2020/3/9

『ドラえもんを本気でつくる(PHP新書)』(大澤正彦/PHP研究所)

 ドラえもんを知らない人はほぼいない。ほとんどの人が、「ドラえもんが友達だったらいいな」と思ったことがあるはずだ。ドラえもんの本当の魅力は、どこにあるのだろうか。そして、AIをはじめテクノロジーの向上によって、将来的にドラえもんをつくることができるようになるのだろうか。

『ドラえもんを本気でつくる(PHP新書)』(大澤正彦/PHP研究所)の著者は、ドラえもんをつくることを夢として持ち続けてきた。そして、5年前くらいから、この熱い夢を公言できるようになった。これは技術の向上による。具体的には、「HAI分野」の発展が目覚ましいことを理由に挙げている。

「AI」は知っていても「HAI」は初めて聞く、という人が大半だろう。HAIは「Human-Agent Interaction(ヒューマン・エージェント・インタラクション)」の略語で、“人と深くかかわる”ためのAI技術。AIとセットで語られることが多いディープラーニングだが、コンピュータにとっては人間が介入しないほうが学習がはかどる。人間がデータを投入する手間暇は、データ量の減少と直結するからだ。しかしながら、人間を介さないディープラーニングは、性能こそ上がるものの、コンピュータが人の手を離れて暴走してしまうのでは、という危惧をもたれがちだ。著者は、人とかかわることが苦手なディープラーニングを利用しながら、人とかかわることが得意なHAIを用いれば、技術のブレイクスルーが引き起こされると予測している。

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 さて、ここで考えてみて欲しい。ドラえもんの本当の魅力とは、何なのだろうか。

 知能をもったロボットであることだろうか。便利な道具を出してくれることだろうか。人それぞれの感じ方があるとは思うが、著者は「のび太を幸せにする、心をもっていること」と考える。

 人は、心に余裕がなくなると他人に優しくすることが難しくなる。マスク不足の一連の報道で痛感している人も少なくないだろう。ドラえもんは、のび太という目の前のひとりしか幸せにできない。しかし、ロボットは量産できる。HAIによって生み出されるかもしれないドラえもんのようなロボットは、目の前の人にとことん向き合い、その人の心に余裕を生み出し、結果、人同士の助け合いが増えて社会全体が良くなるかもしれない。

 著者は、資本主義経済である現代社会を、世の中が良くなった結果人を幸せにする「トップダウン式」幸福の方法論であるとし、ドラえもんがひとりを幸せにする結果、社会が良くなる幸福の方法論を「ボトムアップ式」と考え、これを実現したいと強く願っている。

 さて、AI分野の研究だが、実は日本が世界のトップを走っているという。HAIの研究領域は日本から始まり、今でも日本が世界に広げ続けている。「自分は自分」「他人は他人」という考え方が強い国では独立性の強いAIが開発されやすいが、日本のように「他者とのかかわり」をいつも意識する国ではHAIの技術が発展しやすいと、著者は考えている。

 本書では、現在のAIがどこまでできるのか、そしてどのようにドラえもんをつくるのかをわかりやすく、時に専門的に読者に説明している。著者は、人々を幸せにするのは「いつかドラえもんができてから」では遅いと考えている。著者の願いは、ドラえもんをつくる営みの段階から人を幸福にしていくことであり、本書がその始まりなのだ。

 ドラえもんをつくる、という壮大な計画に心惹かれる若者、なかでもプログラミングやAI技術者になりたいと夢見る子ども、そしてその保護者を中心に手にとってみてもらいたい。

文=ルートつつみ