三島由紀夫の“お蔵入り”初期作品集『夜告げ鳥』と自決直前のインタビューとは?

文芸・カルチャー

更新日:2020/3/20

『初期作品集 夜告げ鳥』(三島由紀夫/平凡社)

 三島由紀夫による初期作品集『夜告げ鳥』が、没後50年となる2020年に出版された。1949年に『仮面の告白』で本格的な作家デビューをする前年に出版される予定がありながら、出版社の倒産によって実現しなかったものだ。

 三島自身が評論、詩、小説を自選しただけではなく、本全体のイメージについてもアイデアを出しており、本書の口絵には三島直筆による装丁案と自選集の目次(「山中湖文学の森 三島由紀夫文学館」収蔵。文学館には三島の幼少期からの作文や絵、創作ノート、直筆原稿、資料などが多数収蔵・展示されている)が掲載されている。とても几帳面な字で、何事にも抜かりのない性格が透けて見えるようだ。

「山中湖文学の森 三島由紀夫文学館」ロビー奥の庭にはアポロン像があり、南馬込にある三島由紀夫邸の庭を模している。三島邸の像はローマで特注したというコピー品で、像とそれを取り巻く黄道十二宮は大理石で出来ている。ヴィクトリア朝風コロニアル形式で建てられた自宅を、三島は「キンキラキンの悪者の家」と称した。

 また三島の自伝的エッセイ『太陽と鉄』と、小説家を目指した少年時代から『禁色』を書いた26歳までの回想録『私の遍歴時代』を収録した文庫本『太陽と鉄・私の遍歴時代』も今年出版された。ところが『太陽と鉄』では詩人であったことを否定し、『私の遍歴時代』には作品集出版の夢が潰えたことは一切書かれていない。

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 このごろ私は、どうしても小説という客観的芸術ジャンルでは表現しにくいもののもろもろの堆積を、自分のうちに感じてきはじめたが、私はもはや二十歳の抒情詩人ではなく、第一、私はかつて詩人であったことがなかった。そこで私はこのような表白に適したジャンルを模索し、告白と批評との中間形態、いわば「秘められた批評」とでもいうべき、微妙なあいまいな領域を発見したのである。(『太陽と鉄』)

私はやっと詩の実態がわかってきたような気がしていた。少年時代にあれほど私をうきうきさせ、そのあとではあれほど私を苦しめてきた詩は、実はニセモノの詩で、抒情の悪酔だったこともわかってきた。私はかくて、認識こそ詩の実態だと考えるにいたった。
 それとともに、何となく自分が甘えてきた感覚的才能にも愛想をつかし、感覚からは絶対的に訣別しようと決心した。(『私の遍歴時代』)

 しかし『夜告げ鳥』に収録されている短いエッセイ『招かれざる客』は、その後の三島の人生を予感させるような内容が書かれている(以下、冒頭と結び)。

 僕はどこにゐてもその場に相応しくない人間であるやうに思はれる。どこへ出掛けても僕といふ人間が、ゐるべきでない処にゐる存在のやうに思はれる。僕はどこにゐたらよいのかいつまで経つてもわからないが、生きてる以上どこかにゐなくてはならない。
(中略)
 しかしいかに孤独が深くとも、表現の力は自分の作品ひいては自分の存在が何ものかに叶つてゐると信ずることから生れて来る。自由そのものの使命感である。では僕の使命は何か。僕を強いて死にまで引摺つてゆくものがそれだとしか僕には言へない。そのものに対して僕がつねに無力でありただそれを待つことが出来るだけだとすれば、その待つこと、その心設け自体が僕の使命だと言ふ外はあるまい。僕の使命は用意することである。(『招かれざる客』)

「七生報國」と書かれた鉢巻と軍服姿の三島が演説をしたバルコニーがあった東部方面総監部の建物。現在は防衛省の市ヶ谷地区庁舎内で移築・復元され、市ヶ谷記念館となっている。

 三島を強いて死にまで引き摺っていくもの、使命は用意すること……こうした死を意識させる内容は、否が応でも1970年11月25日の自決を想起させる。その1週間前の11月18日、三島邸で行われた生前最後のインタビューが『太陽と鉄・私の遍歴時代』に収録されている。思いを胸に秘め、「いまにわかります」と後の行動を予感させるような発言をいくつもしている。

陸上自衛隊東部方面総監部の2階にあった総監室(旧陸軍大臣室)の扉には、三島がつけた刀傷が今も残る。

 自決当日、三島が書き、自衛隊で撒かれた「檄」には、憲法を改正し、自衛隊を国軍とする提言が盛り込まれ、共に決起せよとあった。しかしその夢は潰え、三島は自決した。その死から半世紀経った今、改憲が現実味を帯びてきたことは奇妙な符合といっていいのだろうか。

 三島は若い世代にはあまり読まれなくなったという話も聞くが、軽妙から重厚まで自在な物語の構築美と絢爛豪華な美文は一読に値する。歴史に“もし”はないが、『夜告げ鳥』でデビューしていたら、三島の人生はどうなっていたのか。改めて三島作品を読み、考えてみたい。

写真・文=成田全(ナリタタモツ)

「山中湖文学の森 三島由紀夫文学館」公式サイトはこちら