どうして私だけ普通のことができないの? ADHDの人の「先延ばしグセ」を「すぐやる」に変える“やる気マネジメント”

ビジネス

公開日:2020/3/23

『ADHDの人の「やる気」マネジメント 「先延ばしグセ」を「すぐやる」にかえる!』(司馬理英子:監修/講談社)

 発達障害のひとつ「ADHD:注意欠如・多動症」には大きく3つの特性がある。集中力が持続しない「不注意」、落ち着きがない「多動性」、待つことができない「衝動性」であり、職場や人間関係で失敗を繰り返す原因になりうる。

 こうした特性があるために「好きなことややりたいことはできる」が、「やるべきことが“面倒”で行動に移せない」という「先延ばしグセ」に悩んでいる人も多い。定型発達の人にとって面倒だと思わない普通のことでも、ハードルが高くやるべきことができないため、なかなか理解しづらい。

 だから周囲が「どうして普通のことができないの!?」と責めたて、本人も罪悪感に苛まれて、時には自分を責めすぎてうつ病になってしまうこともある。

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『ADHDの人の「やる気」マネジメント 「先延ばしグセ」を「すぐやる」にかえる!』(司馬理英子:監修/講談社)は、ADHDの人の特性を解説し、上手にやる気を行動に移す提案をしている。本稿ではその一部を引用して紹介するので、「どうして私はこんなに毎日が生きづらいんだろう?」と苦しみを抱えたときは、ぜひ本書を参考にしてほしい。

過去や未来を考えない「現在の囚われの人」

 ADHDの人は、過去や未来を考えず、「今」「現在」を生きている。この特性から英語では「Prisoner of Present(現在の囚われの人)」と呼ぶことがある。

「今おやつを食べたら太ってしまうな」という「未来」や、「去年おやつを食べすぎてダイエットに苦しんだっけ」という「過去の失敗」が、今を生きるADHDの人の頭に浮かびづらい。結果、どんどん目先の楽しそうなことや興味あることに飛びつきがちなのだ。だから反省を活かすことや、計画に応じた行動をとるのが難しい。

 さらにADHDの人は、やるべきことを“面倒”に感じて、思うように行動できない。本書では、「冬用の布団を出すのが面倒で衣服を布団代わりにしてしまい、風邪をひいた人」「電気料金の振込を先延ばしにして、いつ電気が止まるか戦々恐々としている人」「仕事の企画書を先延ばしにして、結局間に合わず上司に提出できなかった人」などが紹介されている。周囲や職場の人々にとって、とても共感しがたい行動だろう。

 こうしたADHDの人の「先延ばしグセ」はやる気を行動に移すスイッチが入らないという脳の機能に原因がある。やる気を行動に移すスイッチが脳内にあり、そのスイッチを入れる神経伝達物質のひとつ「ドーパミン」が上手く働いていないのだ。だから本人の努力で問題を解決しようとしても上手くいかず、やがて本人や周囲が疲弊していく。決定的に何かが壊れる前に、ADHDの特性に応じた行動をとらなければならない。

「要領よく」はNG! ひとつのことに集中しよう

 そこで本書が提案するのが、ADHDの人の「先延ばしグセ」を「すぐやる」にかえる方法だ。そのひとつに「集中」がある。

 よくビジネス書では「時間を有効に使うために、複数のことを要領よくこなす」テクニックが紹介されている。ぜひともマネしたくなるが、実はADHDの人ほどNGだ。

 たとえば「電気料金の振込のためだけに出かけるのが面倒」で、食料品の買い物や雑務も一緒に済ませようと決意する。しかしADHDの人は目の前の刺激に気を取られてしまいがちなので、気づけば自分の興味のある買い物や雑務だけを済ませて帰ってきてしまい、振込はやらずじまい。かえって面倒が増して、やる気をなくしてしまいがちだ。

 だからADHDの人は「ひとつのことに集中」しよう。振込ならば、気が変わらないように頭の中で「振込…振込…」と反すうしながら、コンビニや銀行に直行だ。やるべきことをひとつひとつ確実に片づけることで、次第にやる気も増してくる。

 初歩的ではあるが、言葉の効果もあなどれない。「私は電気料金の振込がしたい!」と口に出して、さらに頭の中で「振込を済ませて得意顔の自分」を思い浮かべてみる。はじめは渋々でも、本気で繰り返せばやる気に変わっていくはずだ。

仕事の締め切りは「人間タイマー」をセットしよう

 仕事の締め切りを守れないのもADHDの特性のひとつ。そこで実際の日時よりサバを読む「マイ締め切り」が有効だ。たとえば締め切りの日時が「3月31日」ならば、「3月30日」と早めに設定してみよう。自分でサバを読んでも意味がなさそうに感じるが、ADHDの人は「そもそも決められた日時を間違えてしまう」特性もあるので、「きっと何かあるはず。そのときのための予備時間」と考え、余裕をもって行動しよう。

 職場に親切な同僚や上司がいるならば、「人間タイマー」をお願いするのも有効な手段だ。「この資料作成の締め切り、明日の10時までだったよね!」と声をかけてもらって、周囲に助けてもらおう。自分でスマホのタイマーをセットする手段もアリだが、うっかり忘れてしまうこともある。やはり確実なのは誰かに事前に知らせてもらうことだ。ちょっと抵抗があるだろうが、苦手なことを助け合うのが人間社会であり、健全な職場の姿である。お願いできる環境ならば、助けてもらうことは何ら恥ずかしくない。

 ただし時にはそのお願いが負担になることもあるので、しっかり感謝を伝えたり、ちょっとしたお礼を手渡したり、気遣いを忘れないようにしたい。

一度だけ触る「OHIO方式」を徹底しよう

 仕事に限らず、郵便物の処理や振込など、事務作業は日常生活でもたくさんある。ADHDの人は単純作業が苦手なので、これらを先延ばしにしがちだ。だからこそすぐに手をつけて気持ちを楽にする「OHIO方式」を徹底しよう。

 これは「Only Handle It Once」の頭文字をとったもので、「一度だけ触る」を意味する。「用紙を受け取ったら(1回目)、いったん置いて、また処理するために取り上げる(2回目以降)のはやめよう」という考え方で、一度用紙を受け取ったらその場で片づけてしまおう。振込用紙を手に取ったらコンビニへ直行、子どもの学校の提出書類はその場でパパッと書いて手渡す、上司からもらった資料は先にざっと確認する。これらを徹底するだけで、生きづらさが少しずつ改善するはずだ。

 このように本書では、ADHDの人の特性を解説し、上手にやる気を行動に移す方法を提案している。本稿で取り上げた内容はごく一部なので、仕事や日常生活に生きづらさを感じていれば、ぜひ参考にしてほしい。

 最後に本書より、この言葉をご紹介しよう。ADHDの人はその特性が原因で、幼少期から周囲に怒られることが多く、自分に否定的な気持ちを持つ人が少なくない。そのうえ社会に出て特性に合わない仕事を頑張り続けて、周囲にまた怒られ、自分で自分を責めて、心の病気になってしまうケースがある。

 しかし完璧な人など、どこにもいない。100点でなくていい。自己否定はもうやめて、「やったね」「よしよし」「それでいい」と自分で自分を応援しよう。

自分が自分の応援団長

 自分の人生を生きるには、誰よりも自分が自分を応援しなければならない。自分が自分の味方でなくちゃいけない。この素敵な言葉を、辛いときほど何度も思い出そう。

文=いのうえゆきひろ