薬剤師の仕事はデマとの闘い!? 40歳の“子ども”や猫の健康相談も…調剤薬局の奮闘

暮らし

2020/3/29

『マンガでわかる薬剤師 あなたの知らない調剤薬局24時!』(漫画:油沼、監修:ネーヤ/河出書房新社)

 新型コロナウイルスの騒動により、マスクや消毒用エタノールなどが小売店の店頭で品切れを起こす事態となったが、昨年の春頃に、やはり瞬く間に売り切れて店頭から消えた物を読者は知っているだろうか。それは、ワセリンである。テレビ番組で、ワセリンを鼻の穴に塗ると油脂で花粉に反応しづらくなり、花粉症の症状が軽減すると紹介されたのが原因。デマ情報ではないものの、マスクが潤沢だった当時に飛びつく必要があったのか疑問だ。今回の騒動でもマスクの品切れや買い占めからの転売、販売店の苦労などが話題になった。不要とは言わないがその過熱ぶりは激しく、あまりにも人々が性急に行動へと移しすぎるきらいがあるのではないだろうか。

 テレビでもネットでも、あるいは友人知人から得た情報は、まず専門家に相談してみるのが一番だろう。こと健康や医療の相談なら、身近な薬剤師を頼ってみるのを勧めたいと思い、『マンガでわかる薬剤師 あなたの知らない調剤薬局24時!』(漫画:油沼、監修:ネーヤ/河出書房新社)を取り上げることにした。

 テレビドラマ化が決まった漫画『アンサングシンデレラ』の主人公が病院薬剤師なのに対し、本書の主人公は調剤薬局の薬剤師なのだが、どちらも病院に行って薬を処方されたときにしか縁が無いと思っていたら大きな間違い。読者の中には、医師の処方した薬を渡してくれるだけなどと思っている人もいるかもしれない。しかし、本書に載っているエピソードはどれも患者さんの相談に応じ、不安を取り除くために薬剤師が悪戦苦闘している姿だ。それは、患者さんに「お大事になさって下さいね」とかける言葉が、社交辞令ではなく「本心」からの願いでもあるということ。

 相談内容で厄介な事例としては、「デマを鵜呑みにする」患者さんへの対応。

 「丸くない薬って強すぎると聞いたんですが本当ですか?」

 「このお薬って黄色いから危険って聞いたんだけど」

 「今日は痛み止めは弱いやつって聞いてたけど…前に出た痛み止めより大きいですもん!」

 薬剤師としては「何故その考えに至ったかは謎ではあるが…」と戸惑いながらも、患者さんが何を恐れているのか、どういう心配をしているのかをヒアリングしつつ説明していく。

 「強い薬が身体に悪い訳じゃない」

 「安全性と色は全く関係ありません」

 「同じ薬ならともかく別の薬どうしで大きさや量を比べちゃダメだぜ」

 もし噂を鵜呑みにして患者さんが自己判断で薬の使用をやめていたら、病状を悪化させていた可能性もあるにもかかわらず、噂を吹聴する側は責任を負ってはくれないことを忘れてはいけない。

 そしてこの相談を受けヒアリングするというのも、患者は十人十色だから一筋縄ではいかない。24時間対応の薬局では、当番制で薬剤師が営業時間外に専用の携帯電話を持たされ帰宅するという。主人公も机に置いた携帯電話を前に不安を抱えつつ、「見つめ合ってても埒が明かないっ!」と風呂と夕食を早めに済ませ待機していると、子供が吐いてしまったとの電話が入る。子供のことだから、さぞ親は不安だろうと熱や下痢の有無をヒアリングし、いくつかの助言を終えて電話を切った翌日に、薬歴簿で家族構成を確認してみると、その子供は27歳の成人。「お子さんが大人だった」は実はよくあるケースだそうで、それこそ40歳だったとか、犬や猫だったなんてこともあるそう。

 本書には他に、「零売(れいばい)」と呼ばれる制度の話も載っている。処方箋によって調剤される医薬品を薬剤師の裁量で販売することで、患者さんは保険が適用されないものの病院を受診しなくても自費で購入できる。ただし、厚生労働省が定める販売条件はかなり厳しく、実施している薬局は非常に少ない。だから、詳しい解説のページでも「無理言って薬剤師を困らせちゃダメよ!」と注意を促している。

 ちなみにワセリンは、今年は各店とも余っているようである。この原稿が掲載される頃にまだマスクの流通が回復しておらず、花粉症がつらいようであれば試してみるのも良いだろう。ただし、売り場に直行する前に薬剤師や登録販売者に相談してからというのを忘れずに。なにしろ原稿を書いている今日現在、新型コロナウイルスにハチミツが効くとか、納豆が予防に良いなどというデマがSNS上で飛び交い、実際に店頭で品切れとなっているからだ。とにかくまず、行動を起こす前に本書を読んで落ち着こう。

文=清水銀嶺

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