セリフは中二病、大怪我も1日で治癒──“何かの主人公”なクラスメイトとモブキャラがうっかり友達に…

文芸・カルチャー

公開日:2020/3/31

『同じクラスに何かの主人公がいる』(昆布山葵/KADOKAWA)

 誰だって一度は「主人公」に憧れた経験があるだろう。

 けれど、物心がついて数年経つと、たいていの人は世界の中での自分の立ち位置がわかってくる。神童? 天才? 超能力者? いやいや、自分にそんな主人公じみた能力はない。役柄を与えられるとしても、主人公のクラスメイトAがいいところだ。そういう意味では、『同じクラスに何かの主人公がいる』(昆布山葵/KADOKAWA)の登場人物・二宮蒼汰も、「この世界の主人公ではない」。

 二宮は、たとえこの世界がフィクションであったとしても、決して主人公に抜擢されることはない平凡な男子高校生だ。なぜ彼は、自分がこの世界の主人公ではないと断言できるのか。それは、彼がこの世界の“主人公”を知っているからだ。

「なっ……!? このエネルギーは……!?」

 教室の後ろから、驚いたような、困惑したような声が聞こえてきた。
 声の主は神宮寺流星。おそらくは、この世界の主人公だと思われる男である。

 授業中、そんなおもしろゼリフを吐いた神宮寺は、そのまま教室を飛び出して行った。なんともダイナミックなサボり方だが、教壇に立つ先生は「ったくアイツは……」と言うだけで、普通に授業を再開する。高校に入学してから3カ月、二宮は幾度となくこんな光景を目にしてきた。戻ってきた彼が大怪我をしていても、誰もそのことを気に留めない。神宮寺の行動に疑念を抱いているのは、なぜか二宮だけなのだ。

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 もちろんはじめは、中二病のクラスメイトとはみんな関わり合いになりたくないのだろうかとも考えた。だが神宮寺は明るい性格で、友人も多く女子にもモテる。無関心を貫かれているのは、あくまで彼の“主人公っぽい行動”だけだ。むしろ人気者だからこそ、「誰もツッコまない」ことへの違和感が際立っており、入学以来そんな違和感を味わってきた二宮は、ひとつの答えにたどり着いた。

 それは、この世界が“何かの物語”で、神宮寺は“何かの主人公”で、僕は神宮寺のクラスメイトという役割を与えられた“何かのモブキャラ”に過ぎないという結論だ。

 二宮は、その“何か”の主人公になりたいとは思わなかった。自分は、ごく普通の高校生活を送りたいだけだ。下手に神宮寺と関われば、物語のキーパーソンにされてしまうかもしれない──そんな仮説が頭の中で成り立った瞬間、二宮は彼との接触を最低限に抑えようと決めた。それなのに、とある放課後、蟹と人間のハーフみたいな化け物と戦っている神宮寺を目撃したことから、うっかり彼の“友達”になってしまい…!?

 主人公になりたい、でもなれない。不平等な世の中で、誰もが一度は感じたことのある鬱屈だろう。たしかに二宮は、“彼の世界”の主人公ではないかもしれない。しかし、わたしたち読者にとっては、二宮こそが“この物語”の主人公だ。それと同じように、わたしたちも、自分の人生を考えるときには、自分自身が“自分の物語”の主人公だと、そう考えることはできないか。

 小説投稿サイト「小説家になろう」発、自称モブキャラの冷静かつ的確なツッコミが冴え渡る学園コメディ。「小説家になろう」系作品が好きな人のみならず、青春小説やSFの愛好者にも、ぜひすすめたい1冊だ。

文=三田ゆき

『同じクラスに何かの主人公がいる』作品ページ▶︎ https://www.kadokawa.co.jp/product/321911000189/