過酷な中学受験の裏用語「お客さん」の意味は?『二月の勝者』で知る受験塾のゾッとする真実

マンガ・アニメ

2020/4/4

『二月の勝者』(高瀬志帆/小学館)

「受験」。この言葉を聞くと、学生時代に死に物狂いで勉強した記憶が蘇ります。受験の合否が、その後の人生を大きく左右するかもしれないと思うと、不安と緊張で夜も眠れなかった人もいるかもしれませんね。

 そんな受験にスポットを当てた漫画『二月の勝者』(高瀬志帆)をご存じでしょうか。週刊ビッグコミックスピリッツで連載中の本作は、東京の受験塾を舞台にした物語なのです。

 業績不振にあえぐ「ビミョーな中堅塾」の桜花ゼミナールに、救世主としてやってきた、黒木蔵人。業界最大手の名門中学受験塾で、カリスマトップ講師をしていた黒木は、着任早々、新6年生たちに「絶対に全員を第一志望に合格させる」と宣言します。しかしその裏では、塾はあくまで営利目的であり、子供たちは「新規顧客」、お金を落とす親は「スポンサー」だと言い切る超現実派。

 新人塾講師の佐倉麻衣は、そんな黒木の考え方に異議を唱えるものの、黒木が子供や親たちの不安を見事解消していくのを間近で見て、少しずつ考え方を変えていきます。果たして、桜花ゼミナールは、子供たち全員を志望校合格へと導けるのでしょうか?

 東京に住む小学6年生は、約10万人。そのうち、中学受験をする児童は約2万5000人だそうです。つまり、4人に一人が中学受験をしていることになります。上位校を目指すとなると、凄まじい競争を勝ち抜かなければなりません。外側からは決して見ることのできない、子供たちの葛藤や親たちの不安が、実にリアルに描かれています。

 今どきの中学受験が一体どんなものなのか、塾はどんな経営戦略を取っているのか……気になりますよね。というわけで、黒木率いる桜花ゼミナールの裏側をこっそりご紹介したいと思います!

受験塾の実態その1 裏用語「お客さん」

 成績最下位のRクラスの担当になった麻衣は、子供たちの成績をなんとか上げたいと奮起します。しかし黒木から、「お客さんに一生懸命になるな」と釘を刺されるのです。

 塾業界の裏用語、「お客さん」。これが意味するのは、「とりあえず通って、授業料だけ落としてくれればいい」という生徒のこと。

上位校合格の見込みのない生徒には、夢を見させ続け、生かさず殺さず、お金をコンスタントに入れる「お客さん」として、Rクラスには「楽しくお勉強」させてください。

 塾も営利目的なので致し方ないこととはいえ、黒木の辛辣な言葉に、麻衣は絶句します。

受験塾の実態その2 転塾

 塾側にとって、生徒の流出、すなわち「転塾」は一大事です。特に、トップクラスの成績の子供は、合格実績に大きく関わるので、転塾を防ぐことは塾にとって重要な課題でもあります。

 桜花ゼミナールの優秀者選抜クラスに通う前田花恋も、転塾を考える一人。さらなる成績アップを目指し、名門フェニックス塾に入ることを決めます。金の卵である花恋を失うことは、桜花ゼミナールにとってかなりの痛手であるにもかかわらず、黒木は動こうとしません。

 実は黒木は、花恋がフェニックスで躓くことを予見していたのです。案の定、花恋はフェニックスのスパルタ授業に疲労困憊していきます。どん底まで落ちたタイミングを見計らって、花恋の前に現れた黒木。花恋の自己肯定感を高める言葉を並べ、まんまと桜花に引き戻すことに成功するのです。しばらく泳がせて、自信を失うのを待つ……とんだ策士ですね。

受験塾の実態その3 数々のオプション

 塾には、通常の授業のほかに、長期休暇講習というオプションがあります。桜花ゼミナールでは、春期講習、夏期講習、冬期講習のほか、ゴールデンウィーク講習、授業のない日曜日のオプションとして前期日曜特訓、一日中勉強づけの勉強合宿、志望校別特訓、弱点克服特訓……などなど、年間通して常に何かしらのオプションがあります。これらのオプションをすべて取り、さらに通常授業料も合わせると、年間126万9000円かかるそう(※作中の一例)。

 中学受験はとにかくお金がかかるので、親の協力なしに合格はありえません。親をスポンサーと呼ぶのはこういう理由からなのです。

受験塾の実態その4 系列校への勧誘

 ある日黒木は、Rクラスの子供たちに渡すため、「よくがんばったで賞」と書いた表彰状をつくります。黒木にも優しいところがあったのだと感動する麻衣でしたが、実はその表彰状は、「個別指導塾ノビール」への勧誘券だったのです。

 ノビールは、桜花ゼミナールの系列塾で、うまく誘い込むことができれば、塾の売り上げが大幅にアップするというわけです。黒木いわく、「重課金コース」。麻衣は、塾経営の現実に、またもや愕然とするのでした。

 このように、売り上げを安定させるために、塾もいろいろな工夫をしています。塾の売り上げを安定させるためオプションをたくさん取ってもらわないといけませんが、最終的に合格してもらわないと塾の実績が上がらないので、成績を上げるサポートにも手を抜けません。塾講師たちも、必死です。

 2020年夏、柳楽優弥さん主演でドラマ化されることも決定した『二月の勝者』。今どきの中学受験の実態を覗いてみませんか?

文=中村未来(清談社)

この記事で紹介した書籍ほか