30万人がきゅんきゅんした、神様×人間のもどかしいピュアラブストーリー。単行本化で神様の“人間バージョン”も登場!

マンガ

公開日:2020/3/31

『土地神と、村で一番若い嫁』(あらをか青い/一迅社)

『「村で一番若い女を嫁に」と言ったら村の高齢化が進みすぎてて思ってたのと違うのが来た神様の話』というタイトルでTwitterに発表されて以来、「かわいいがすぎる」と30万人がfav(いいね)をした話題のマンガが、『土地神と、村で一番若い嫁』(あらをか青い/一迅社)と改題してこのたび刊行された。

 内容は原題どおり、独りで土地を守り続けるのも寂しくなってきた神さまが、そろそろ結婚でもするかと思って村に請うたところ、村で一番若かったのが35歳の未亡人だった、というもの。「思ってたの違う…」と驚いたものの、いきなり帰されては本人も肩身が狭かろうととりあえず一緒に暮らしてみたら、未亡人とは思えないほどおぼこくて、でも働き者で気配りのきくお嫁さまの魅力にすっかりやられてしまい、気づけばべた惚れしてしまった土地神さま。

 神さまといえばすべてを超越した存在、という気がするが、よく考えてみれば、ずっと独り身だった彼もまた、恋愛初心者には変わらない。「前夫と比べられたらどうしよう……」となかなか夜伽に誘えず、「いやいや人間ごときに私が負けるわけがない」と葛藤するのもかわいいし、「他の神様が生娘にこだわる理由がわかった」という結論に達するのも、身も蓋もないがまあわかる、と親近感を覚えてしまう。

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 お互いに照れと遠慮があいまって、1巻が終わる時点でも手をつなぐことすら気軽にできない初々しさ。神さまとてそういう欲がないわけではないのだけれど、「さすが躊躇している私の心をお見通しで、無理強いはなさらない」と好意的に解釈してくれるお嫁さまの手前、どこまで距離を詰めていいかはかりかねている。

 お嫁さまはお嫁さまで、相手は畏れおおくも神さまなのだから、どこまで我儘を言っていいかわからない。だけど、いまだ亡くした夫への愛を残しながら、それでも前を向いて、幸せに日々を暮らしていけるのはきっと、土地神さまが彼女のすべてを受け容れようとしてくれているからだ。自分とは明らかに“違う”相手を尊重しながら、少しずつ距離を詰めていく過程には、こんなふうに誰かと寄り添いあって生きていけたらなあ、という憧れとともにほのぼのさせられる。願わくは、ずっと二人の穏やかな時を見守っていたい。でもときどきちょっとは進展してほしい。そんな優しさに満ちた作品だ。

 ちなみに“お嫁さま”と書いたのには理由があって、神さまにとって人間の名を知るのは、相手を不当に支配しかねない力をもつことに等しい。だからこそ、長らく名前を呼ぶどころか聞くことすらできずにいたのだが…。知人(?)の子孫繁栄を司るタヌキ面の神さまと交流した時、彼は一見チャラついているように見えたものの、その実覚悟をもって自分の伴侶として迎えた人間のお嫁さんを大事にしている姿を見て、自分も肚をくくるエピソードにはかなりキュンとさせられる。お嫁さまたっての希望で初デートするに至った描きおろしでは、普段狐面の神さまの人間バージョンも見られるので、Twitter時代からのファンも必読である。

文=立花もも