コロナウイルスが猛威を振るう今だからこそ、ネットのデマに騙されない情報リテラシーを身につけるべきだ

社会

更新日:2020/4/1

『ネットで勝つ情報リテラシー(ちくま新書)』(小木曽健/筑摩書房)

 大変なことになってしまった。新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう現在、感染者が懸命な闘病を続けていることはもちろん、コロナショックによる“二次被害”で多くの人々が仕事や生活の危機に直面している。

 希望の光が見えない日々に息苦しさを覚える中、私たちはその息苦しさを加速させる別の騒動にも直面する。

 2月末、SNSで「コロナの影響でトイレットペーパーが品薄になる」旨の投稿が流れ、人々がそれを買い占める大騒動が起きた。本稿を執筆する3月31日時点でも、依然として一部の地域で品薄が続いているという。

advertisement

 さて問題は、すでに報道で流れたように、この大騒動を引き起こした投稿がデマだったこと。それも反社会組織の極悪人が企てたものではなく、ごく普通のSNSユーザーの投稿にすぎなかったのである。

 ネットが急速に発達し、スマートフォンの登場によって、私たちの生活は十数年前に比べて激変した。コンテンツと呼ばれる情報のかたまりが、いつでもどこでも私たちを退屈させることなく刺激を与える。

 実に快適な生活である一方、別の危険もはらむ。今回の騒動のように、デマや悪意に満ちた情報に踊らされて、被害を受ける可能性だ。だから私たちは、ネットの本質を理解し、その情報を用いて適切な振る舞いができる能力「情報リテラシー」を身につける必要がある。

 もし例の投稿を拡散した人々が『ネットで勝つ情報リテラシー――あの人はなぜ騙されないのか』(小木曽健/筑摩書房)を読んでいれば、今回の騒動はこれだけ大きくならなかったはずだ。

その情報で損得をするのは誰だ?

 情報リテラシーの「リテラシー」とは、目の前にある情報を「読み解く」こと。ニュースにせよ、SNSの投稿にせよ、その情報が誰の手で、どのような意図で発信されたのか見極めることができれば、情報リテラシーの獲得に大きく近づける。

 本書より一例を取りあげたい。ここにある政治家が3人いるとしよう。彼らはみな「日本にカジノを建設することに反対」しており、それぞれこのような主張を展開した。

政治家A議員
「カジノ建設には反対です。競輪・競馬といった公営ギャンブルがすでにあり、深刻なギャンブル依存の問題も起きています。カジノを解禁する前に、既存の公営ギャンブルに対する規制を進めるべきです」

政治家B議員
「カジノ建設には反対です。パチンコによるギャンブル依存や駐車場での子供の死亡事故は、すでに大きな社会問題です。日本にはもう、競輪・競馬といった公営のギャンブルがあるのですから、これ以上、公営ギャンブルを増やすべきではありません」

政治家C議員
「カジノ建設には反対です。パチンコや、競輪・競馬などのギャンブル依存症は、すでに大きな社会問題です。国内のギャンブル全般にもっと強力な法規制が必要です。カジノ建設の費用は福祉などの国民生活向上に充てられるべきです」

 一見すると、彼らの足並みは「カジノ反対!」でそろっている。しかし「その情報を発信して誰が得をして、誰が損をするか」に注目すると、カジノ建設に対する彼らの「思惑」がまるで違うことに気づく。

 まずA議員は、カジノをわざわざ公営ギャンブルとみなし、同じく公営ギャンブルの競輪・競馬を批判している。しかしギャンブル依存症を引き起こすパチンコについては一切ふれていない。実はA議員、パチンコ業界と密接な関係にあり、カジノ建設による売り上げの落ち込みを回避しようとしているのだ。だからカジノをわざわざ公営ギャンブルとみなして批判している。

 続いてB議員は、公営ギャンブルの労働組合と密接な関係にあるので、カジノによる売り上げの落ち込みを懸念している。しかしパチンコ業界との接点はないので、猛烈にパチンコを批判してカジノをけん制しているのだ。

 そしてC議員は、政治家として駆け出しの若手である。だからいずれの接点もなく、誰に気遣うことなくギャンブル全体を批判できる。さらに批判を展開しつつ、カジノ解禁と直接関係ない国民福祉を巻き込むことで、自身の人気アップを目論む。

 このように同じ「カジノ建設反対!」の発信であっても、情報を詳しく読み解くことで、それぞれの思惑が透けて見えてくる。これが情報リテラシーだ。

 本書を読んで強く感じるのは、どのような情報を目にしても、絶対に鵜呑みにしないこと。そして落ち着いてもう一度情報を見つめ直し、誰がどのような意図で発信したか、しっかり考えて情報を受け取る姿勢を決めることだ。

 このほか本書では、商品のステマの見抜き方、発信者の都合のいいように加工したグラフや数字に騙されない見極め方など、情報リテラシーを得るための心得を解説する。

 さらに有名人による炎上商法の一例や、SNSでよく出現する「ワケの分からない議論を展開する痛い人々」についても言及。本稿ですべて紹介できないことが残念でならない。

震災デマの見分け方

 さらに本書では「震災デマの見分け方」についても解説する。コロナ騒動で疲弊する私たちが今まさに手にするべき能力なので、ここで簡単に紹介したい。震災デマは大きく3パターンに分かれるという。

【パターン① 科学的、常識的に考えて有り得ないもの】
「今日から3日以内に、また大きな地震が発生するらしい」
「今回の水害は、●●が気象兵器を使って発生させたもの」

 実にバカバカしいが、大きな災害発生時に必ず目にするポピュラーなデマだ。言うまでもなく、事前に地震を予見できたり、意図的に大災害を発生させたりできる人は、もはや神の領域にいる。だから信じるに値せず、社会人として冷静に対処しよう。

【パターン② 情報源の記載がないもの】
「友達から聞いたんだけど、●●駅で電車が転覆したらしい」
「コロナの影響でトイレットペーパーが品薄になる」

 今回のトイレットペーパー騒動がコレにあたる。「いかにもそれっぽい情報」が見分けるポイントで、この情報を見た人の「あの人にも教えなきゃ!」という親切心や使命感から拡散が止まらなくなる。しかしこのような“国民の生活に関わる緊急事態”ならば、自治体やマスメディアなどの機関から緊急メッセージが届くはずだ。それがない場合、高確率でデマ。

【パターン③ それらしい画像が添えられているもの】
「●●スーパーが燃えている!」(デパート火災の画像)
「ふざけんな、動物園から動物が逃げたぞ」(動物が逃げ出している画像)

 このパターンは、発信者に「社会を混乱に陥れてやろう」という明確な悪意がある。極めて悪質で法律に抵触する行為だ。見抜く方法として、多くの場合、添付された画像はネットで適当に拾ったもの。だから不安になる前に、まずは冷静にネットで画像検索をかけよう。

 おそらく今後もコロナショックが続くだろう。悪質なデマで再び社会が混乱しないためにも、最低限この3パターンは頭に入れておきたい。

 コロナショックの影響で、トイレットペーパーに続いて今度は、関東地方を中心にスーパーの食料品を買い占める動きも見られた。たしかに都市封鎖が始まると私たちの行動が大きく制限されるが、現在はまだ“可能性”の段階であり、始まったとしても食料品を購入できなくなるわけではない(ただし購入できる時間帯や商品などが制限される可能性はある)。むしろ先日のトイレットペーパー騒動といい、買い占めによる物流への負担のほうが心配だ。これもまた情報リテラシーの欠如が騒動を引き起こしている。

 希望の光が見えない生活に息苦しさを覚えるばかりだが、その息苦しさを加速させている一因が、私たち自身にあることは否定できない。人類がコロナウイルスに打ち勝ったとしても、人々が情報リテラシーを身につけない限り、このような騒動は何回でも引き起こされる。投稿を見て冷静さを失う前に、財布を持ってスーパーへ走り出す前に、まずは本書を手に取って、情報との正しい付き合い方を学んでみよう。

文=いのうえゆきひろ