感染症拡大を描く医療サスペンスマンガ『リウーを待ちながら』が教えてくれること

マンガ

更新日:2020/4/15

『リウーを待ちながら』(朱戸アオ/講談社)

「感染症を一人で封じ込めるのは無理だよ」
「そしてたくさんの人を動かすには時間がかかる」

 この台詞を読んだとき、まるで今の日本のことのようでゾッとした。新型コロナウイルスの感染が広がる中、改めて注目を浴びているマンガがある。2017年から2018年にかけて発表された『リウーを待ちながら』(朱戸アオ/講談社)だ。全3巻の本作は、「悪魔の細菌」に脅かされた架空の都市・横走市を舞台に、女性医師・玉木と周りの人たちの奮闘を描く物語。そこには都合の良い「奇跡」は存在せず、圧倒的な「現実」だけが横たわっている。

 どんな災害も、始まりは突然だ。横走中央病院に、ひとりの青年が運び込まれる。ボウズ頭の自衛隊員で、症状は、原因不明の吐血・昏倒。その後も次々と似た症状の患者が運び込まれるが、不可解な出来事が起こる。最初に倒れたボウズ頭の青年が、主治医である玉木の了承なく自衛隊病院に転院したのだ。承諾した院長は取り付く島もなく、自衛隊病院に連絡しても、青年の容態は教えてくれない…。そう、この時すでに、自衛隊内部で「感染」が広がっていたのだ。

 原因は、キルギスへの派遣要請。日本に帰国する際、そこで村を壊滅させていた「肺ペスト」を持ち帰ってしまったのだ。肺ペストの症状は極めて重い。もし治療をしなければ、1~2日で100%が死に至るという。感染は自衛隊内だけには収まらず、市内へと広がる。感染経路を追うが、すべての感染を封じ込めることはできず、日に日に死者の数は増えていく。

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 感染症が他の災害と違うのは、「人から人にうつる」ことだろう。普段同じ時を過ごしている家族や友人、会社の同僚。周りの大切な人を、自分が原因で殺してしまうかもしれない。愛ゆえの行動が、逆に感染を広めてしまうかもしれない。主に医療現場から感染症拡大を描く本作だが、感染した市民のエピソードからも目が離せない。いつ、私たちの身に起きてもおかしくない話だ。

 果たして、そんな絶望の感染症拡大を、玉木たちは乗り越えることができるのか。この物語には、簡単な「奇跡」は起こらないし、わかりやすいヒーローもいない。目の前の現実を冷静に見つめながら、それぞれができることをやるしかない。筆者がいちばんグッときたシーンは、物語の終盤、玉木が父親の言葉を思い返す場面だ。決して倒れない玉木を支えるその言葉は、きっと今の私たちにも必要なものである。ぜひ作品を手に取り、噛み締めてほしい。

文=中川凌(@ryo_nakagawa_7