【ソーシャルディスタンス】独りでいると寂しい? 今の悩みを上手に手放すコツ

暮らし

公開日:2020/4/9

『苦しみの手放し方』(大愚元勝/ダイヤモンド社)

 生きるのは、正直いって辛い。こんなご時世で漠然とした不安感を抱えて、ふとくたびれる瞬間もある。今、自分はここにいてよいのか。今、自分は何をするべきなのか…。それすらも考えるのが億劫で、目の前の生活からとっさに逃げ出したくなってしまう。
 
 答えが分からぬままもがいていたところ、ふと目に留まったのが『苦しみの手放し方』(大愚元勝/ダイヤモンド社)だ。
 
 登録者数21万人超(2020年4月現在)のYouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」でも広く知られる著者は、悩みには多くの方々に共通するパターンがあるという。本書は人びとの悩みに対して仏門という立場から答える本。「あなたは今、何かしらの苦しみを胸中に抱えていらっしゃるのではないでしょうか」の一文に、思いがけなくすがってしまった。

孤独は「魅力を輝かせる」ためのチャンス

 本書に掲げられているのは、人間関係・仕事・お金・健康・家族・恋愛など、誰もが抱えるであろう悩みに対する50の教えだ。
 
 例えば、ふと押し寄せる「孤独」はときに、人の心をむしばむ。しかし著者は孤独について、本来あるべき「自分自身を感じられる」瞬間であり、自分の魅力を輝かせるための最大のチャンスであると諭す。

 さらに、その先で得られるのが「勝友」だ。勝友とは「優れた友」のこと。自分に対して「知恵と勇気、優しさと誠実さ、堅実さと大胆さ、美しさと豊かさ」をあわせ持って接してくれる貴重な存在だ。
 
 仏教には「与える者が友だち(勝友)をつくる」という言葉がある。寂しさを埋めようとする人付き合いは、いずれほころびも生まれてしまう。他人に振り回されることなく、そして一方で「人から何かしてもらいたい」という欲を捨てることができれば、やがて孤独は解消されていくはずだし、本当の友情を知ることができるのだろう。

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カネに振り回されない「小欲」「知足」の教え

 本書で意外に思ったのは、「仏教ではむしろ、経済活動を肯定しています」という一文。お釈迦様はたしかに「煩悩や欲に惑わされてはいけない」と説いている。しかし、その真髄は「あまり欲張らないで、満足することを知れ」というところにあるそうだ。
 
 けっしてカネそのものが悪いのではなく、本来自制しなければならないのは、欲にまみれて「もっと、もっと」と求めること。そのため、仏教では「小欲(少欲)」「知足」という教えがある。

 小欲とは、自分が持っていないものをたくさん求めすぎないこと。そして、知足とは、すでに持っているもので満足することを表す。
 
 カネは「本当に大切なもの」を手に入れるための道具でしかない。小欲・知足を実践するには、まず自分自身の生活をかえりみて、自分にとって「本当に必要なもの」「本当に大切なもの」を明らかにすることが必要だと語る。

刺激を求め過ぎるのは“苦しみ”のはじまり

「刺激を求める」というのも、退屈な日常にあえぐ中で自然と生まれる感情だ。ひとたび「刺激がない」と思い込み始めると、周囲の景色がとたんに色あせてしまう。
 
 お釈迦様は「人間は、刺激がないと、生きていくことができない」と説く。しかし一方で本書は、セックスやギャンブル、ドラッグなどの強い刺激を求めるのは「苦しみのはじまり」であると諭す。

 心がけておきたいのは、「刺激の虜にならない」という姿勢だ。人間が刺激に溺れやすく、ときに翻弄されてしまうのは、私たちが「愚かな生き物」だからだと著者はいう。
 
 そのため、自分を律したければ、まずは「自分は愚かである」と認めることが大切。そして、その先で愚かさを克服することに人生の醍醐味を見出だせれば、きっと光がみえてくるはずだ。

 仏門を通して読者へと寄り添う著者の語り口は、どれもやさしく、そして普遍的な考えだからこそ私たちの心に深く突き刺さる。日常生活で感じる苦しみは、この先の生き方を見つめ直す道しるべでもある。本書を手に取り、ひとりでも多くの人が薄暗い道から抜け出せるよう願いたい。

文=カネコシュウヘイ