『秘密』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』に続く東野圭吾の感動作!「願いが叶う」クスノキの番人を命じられた青年の成長物語

文芸・カルチャー

公開日:2020/4/17

『クスノキの番人』(東野圭吾/実業之日本社)

 不安なニュースばかりの毎日に、心が荒んでいくような気がする。人の心は思いの外、簡単に弱ってしまうものなのかもしれない。だが、憂鬱な気分のまま手にしたこの本は、私の心を確かに癒してくれた。その本とは、『クスノキの番人』(実業之日本社)。作家生活35周年を迎えた東野圭吾の最新作だ。

「人殺しの話ばかり聞いていると、時折ふと、人を生かす話を書きたくなるのです」。この作品について東野圭吾はこんなコメントを寄せているが、その言葉の通り、この本は、人を生かし、私たちに生きる希望を与えてくれる物語。『秘密』『時生』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』に続く、東野圭吾の代表作となるに違いない作品なのだ。

 主人公は、直井玲斗。不当な理由で職場を解雇され、その腹いせに罪を犯した彼は、留置所で、起訴を待つ身だった。だが、玲斗は、突然現れた弁護士によって釈放される。弁護士の依頼人は、柳澤千舟。見たことのない年配の女性だが、玲斗の伯母なのだという。「あなたにしてもらいたいこと—それはクスノキの番人です」。柳澤家の敷地内にある月郷神社にある巨大なクスノキ。「その木に祈れば、願いが叶う」と言われているこの木の管理人となることを玲斗は千舟から命じられたのだった。

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「クスノキの番人」をすることに何の意味があるのか、玲斗にはわからない。千舟は「いずれ分かる時が来る」と言って何も教えてくれず、玲斗は歯がゆい思いをしている。「クスノキの番人」にとって、特に重要なのが、夜間の時間帯らしい。クスノキへの祈念は、新月と満月の夜にしかできず、「クスノキの番人」の仕事は祈念する人々のお世話をすることにあるらしいのだ。

 そして、ある日の夜、クスノキに忍び寄る女を見つけたことから、玲斗はさまざまな騒動へと巻き込まれていく。一体、「クスノキの番人」という仕事にはどんな意味があるのか。読者は玲斗とともにその謎を追うことになる。

 玲斗は、今まで決して褒められた生き方をしてこなかった。愛人の子どもとして生まれた自分のことを肯定できずにもいた。母も幼い頃に亡くし、恵まれた暮らしではなかったから、学もなければ、礼儀も知らない。上手くいかないことがあっても、いつも卑屈になっていた。だが、玲斗は千舟と出会い、クスノキのもとへ祈念に訪れる人々と関わるなかで、確かに変わっていく。そんな玲斗の成長に読者は胸が熱くなることだろう。

 この物語では、さまざまな家族の愛の姿を描き出していく。もし、こんなクスノキがどこかに存在するならば、自分は一体どんな祈念をするだろうか。ぜひとも私も大切な人たちとともに祈念に行きたいものだ。「クスノキの番人」の秘密を知った時、あなたもそう想像せずにはいられないだろう。たとえ、不安なニュースが相次いでいても、思うように外出ができなくても、想像することはやめられない。この本は、不安な日々を過ごすあなたを救うに違いない。すべてを包み込むような優しい読後感に癒されること間違いなしの一冊。

文=アサトーミナミ