「おもしろい」の反対語は「つまらない」じゃない? ちょっと意外な日本語のヒミツ3選

ビジネス

公開日:2020/4/13

『すばらしき日本語(ポプラ新書)』(清水由美/ポプラ社)

「おもしろいの反対語は?(ちなみに、つまらないじゃありません)」と言われて、正解を答えられる日本人はどれだけいるだろう。

『すばらしき日本語(ポプラ新書)』(清水由美/ポプラ社)は、日本語教師である著者が日本語のおもしろさや素晴らしさを伝えるために上梓した1冊だ。著者は30数年にわたって海外からの留学生に日本語を教えてきた、いわば「日本語のプロ」である。

 本稿では、日本語のプロが「それを知らないのはあまりにもったいない」という日本語の魅力やヒミツをいくつか取り上げて紹介する。

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外国の文字もごちゃまぜ! ハイブリッドすぎる日本語の文字

「ひらがな、カタカナ、漢字」という3種類の文字がある日本語は、外国人学習者にとって、習得に手間取る書記体系をもつ言語だという。たしかにアルファベットだけで文章が成り立つ英語と比べてみると、文字の使い分けは複雑そうだ。

 しかし日本で国語教育を受けた日本語ネイティブ(=大多数の日本人)にとっては、あまりに当たり前のことすぎて、その複雑さがいまいちピンとこない人も多いだろう。

table に、 red い wine の glass が、 two つ。(p.18)

 たとえば、上の「英語+ひらがな」で書かれた文章に、違和感をもつ人は多いはずだ。しかしこの文章と、3種類の文字を使い分ける日本語は“本質的に同じ”なのだという。

 上の文章をすべて日本語に変換すると「食卓に、赤いワインのグラスが、二つ。」となる。外国の文字(漢字)と、日本で生まれた文字(ひらがな、カタカナ)が「ごちゃまぜ」なのである。

 母国語以外として日本語を学ぶのは骨が折れそうだ…と思いきや、この煩雑さに魅力を見出す学習者も少なくないのだという。日本語とは、かなりユニークな書記システムをもっているのだ。

「お前」呼びは失礼? かつては目上の人を敬う言葉だった

 本書の敬語に関する章では、ある球団の監督が応援歌の中で選手を「お前」と呼ぶ歌詞に、いささか礼を失するのではないかと苦言を呈したエピソードが紹介されている。応援団は、その歌を歌うのを自粛した。

 この監督のように「お前」という呼び方にあまり良い印象を抱かない人は多いと思う。しかし、そもそも「お前」は「御前」で、上位の人を敬って呼ぶ言葉であった。本来の意味でいえば、「お前」は礼を失するものでも、言われて不快に感じる言葉でもないのだ。

 しかし長く使われている言葉というのは、そこに込められている敬意がすり減っていくことがあるのだという。

 たとえば「あげる」という言葉も、じつは下位者から上位者に向けて、何かを進呈する行為をあらわしていたが、現在では「植物に水をあげる」「ペットにエサをあげる」という使い方がされている。

 今は当たり前の敬語でも、数十年、数百年先にはムッとされる言葉に変わっているかもしれないのだ。

「あるまじき」という言葉を使う謝罪は反省の色なし?

 日本語が大好きという著者でも「愛せない日本語」もあるという。そのひとつが不祥事を起こして謝罪する人たちが言う「あるまじき」だ。

「まことに、あるまじきことで、きわめて遺憾であります」ということばとともにマイクの前で深々と腰を折るや、ずらりと並んだ頭頂部にカメラのフラッシュがいっせいにまたたく。(p.156)

 あるまじきという言葉をひもとくと、まず「~まじき」は一人称なら意志、三人称なら推量、というように主語によって言葉の意味が分かれる。しかし言葉の根本にあるのは「まだ起きていないことの否定」である。

 上の引用文にある「あるまじき」の主語は、不祥事そのものを指すので三人称。つまり、上の謝罪の言葉を正確に解釈すると「自分が知らない間に、あるはずのないことが起きてしまったようだ」ということになる。

よく、日本語は主語があいまいだ、などと言われますが、決してそんなことはありません。日本語は、明示しなくても主語がわかるしくみを備えた言語です。しかし、主語を明示しなくてもわかる、ということと、主語をごまかしてもいい、ということは、まったくの別問題です。(p.161)

 本気で謝る気があるのなら「私」あるいは「私たち」という一人称で語るべきはずなのに…というのが、著者が謝罪の場での「あるまじき」を愛せない理由である。あるまじきという言葉は、謝罪する本人が使っていい表現ではないのだ。

 私たち日本語ネイティブは、大人になってから他の言語を学ぶことはあっても、改めて日本語を知る機会は少ない。本書は、慣れ親しんだ日本語の意外な一面を教えてくれるだろう。

 ちなみに「おもしろいの反対語は、おもしろくない」だそう。その理由については、ぜひ本書で確認してほしい。

文=ひがしあや