2020年、芦田愛菜主演で映画化! あやしい宗教にのめりこむ両親とその娘を描く『星の子』

文芸・カルチャー

公開日:2020/4/18

『星の子』(今村夏子/朝日新聞出版)

 今年、芦田愛菜さん主演で映画化が決定し、再び注目を浴びている小説がある。今村夏子さんが芥川賞を受賞する前に執筆した、初の長編小説『星の子』(朝日新聞出版)だ。

 本作では、宗教にのめりこむ夫婦の次女・ちひろの視点から、歪んでいく家族の姿が描かれる。

 幼い頃、ちひろは病弱だった。ある日、父親が「金星のめぐみ」という水を同僚にもらい、ちひろに飲ませると健康になった。両親は水のおかげだと思い込む。それが、両親があやしい宗教を信じるきっかけとなってしまった。

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 病弱だった幼い頃の自分をちひろは覚えていない。両親の信仰は、彼女にとっては物心ついてから続いている当たり前のことだ。両親は自分や姉に対してとてもやさしいし、ちひろ自身思春期を迎えるまでは違和感を抱いていなかった。

 しかし“金星のめぐみ”を勧めた父親の同僚の家を訪れたとき、読者はちひろより先に、彼らが信仰する宗教の異常性を垣間見ることになる。

 父の同僚とその妻に勧められるがまま、ちひろたち家族4人は“水に浸したタオルを頭の上にのせた”。同僚夫婦によると「金星のめぐみ」は特別な生命力を宿している水で、シミやしわに効き妊娠できた人までいるというのだ。

 ばからしい。

 そう切り捨てられる人がほとんどだと思うが、ちひろの両親は違った。素直なふたりは信じ込み、日常的に水に浸したタオルを頭にのせるようになる。ブラックジョークのようなこのエピソードは、物語が進むにつれて不穏さを増していく。

 ちひろより4つ年上の姉、「まーちゃん」ことまさみは、両親があやしい宗教にのめりこむ前の家庭生活を知っている。ちひろ目線の物語なので明記されていないが、突然変わってしまった家庭生活で最も苦しんだのは彼女だろう。

 高校生になったまさみは、両親とケンカして暴れることが多くなり外泊を繰り返した。そして、とうとう出ていった。

 残った子どもはちひろだけ。

 ちひろは学校で孤立し、誰かと仲良くなっても相手から友だちと思ってもらえない。悲しい気持ちになるが、ちひろは両親を責めない。それが物心ついたときからの自分の両親であり、まさみと違い彼らが宗教にのめりこむ前の家庭生活を知らないからだ。

 ちひろが祖母の法要を毎回楽しみにしていて家族で自分だけ出席する場面は、宗教によって家族が貧困に追い込まれたことを暗黙のうちに表している。法要で出されるお弁当はちひろの生きがいだ。周囲から見ても呆れるほどお弁当の豪華さに喜ぶちひろを見て、私たちは息が詰まりそうになる。

 ちひろは将来どうなるのか。物語が迎える結末に美しさを感じる人もいれば、ぞっとする人もいるだろう。

『星の子』文庫版では、巻末に著者と、著者が尊敬している作家・小川洋子さんの対談がある。当初予定していた『星の子』の結末についても触れていて興味深い。

 小川さんは著者を“言葉にしていない世界をちゃんと書ける”作家だと言った。

“言葉にしていない世界”は映画でどう表現されるのだろうか。公開が待ち遠しい。

文=若林理央