大林宣彦監督が語っていた「映画だからできること」。コロナ禍のいま、受け取るべきメッセージ

文芸・カルチャー

2020/4/17

『最後の講義 完全版 大林宣彦』(大林宣彦/主婦の友社)
『最後の講義 限定セットBOX 完全版 DVDつき』(石黒浩、大林宣彦、西原理恵子、福岡伸一/主婦の友社)

余命3カ月の宣告を受けてから映画を2本も作った

 2020年4月10日。この日は大林宣彦監督にとって、待ちに待った新作映画『海辺の映画館-キネマの玉手箱』の公開日だった。舞台挨拶が可能だったかどうかはわからないが、この日をずっと心待ちにしていたはずだ。大変残念なことに公開は延期となり、この夜、ご自宅で息を引き取られた。

昨秋は大林監督が各地で映画と平和について語り続けた

 監督が2016年8月に肺がんのステージ4で余命3カ月と宣告されてから、『花筐/HANAGATAMI』、新作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』と、映画を実に2本も製作した。去年の秋は新作の編集作業と並行しながら公の場にも多数登場され、映画と平和について語った。

 2019年9月14日、大林監督は山口市で、「中原中也の会大会」が開かれ、そこで「中也さんに導かれて、戦争史を訪ねる映画を作りました」と題した90分間の講演を行った。その日はまだ夏の暑さが残り、車椅子で登場された監督は、ハンドマイクを少し大義そうに持ちながらも、『花筐/HANAGATAMI』に登場する「サーカス」の一節を自分の幼いときの思い出とともに語り、戦争の愚かさについても熱く話された。

 11月1日、「東京国際映画祭2019」のワールドプレミアでは新作が上映され、監督の長年の功績に対して特別功労賞が授与された。ファンと国内外のメディアが見守る中、常盤貴子さんはじめ、映画の出演者とスタッフに取り囲まれ、平和をテーマにした新作について語り、まだまだ構想が多数あって、これからも映画を作りたいという強い気持ちを語った。

 11月5日には文化功労賞として顕彰。11月22日から24日には「広島国際映画祭2019」と、監督の登場する機会は大変多かった。

 本当なら2月28日から3月1日まで、「第4回尾道映画祭2020」で新作、『さびしんぼう』『時をかける少女』『転校生』の尾道三部作やショートフィルム上映も用意されていたが、やむなく中止となっている。

映画だから伝えられることがある

 監督は講演会、トークショーなど公の場で平和について語り続けたが、監督の考える平和と映画の役割についてわかりやすく語られている本がある。書籍『最後の講義 完全版 大林宣彦』(主婦の友社)である。これはNHK Eテレで放送された『最後の講義』を書籍化したものだ。放送は50分番組だが、大好評だったため、3時間の完全版が何度も放送され、書籍はこの完全版の内容となっている(他の著者の書籍と一緒になった『最後の講義 完全版セットBOX DVDつき』があり、そちらには監督の特典画像つき)。

 書籍の中で、監督は戦争中に子ども時代を過ごしたため、子ども時代から「これが最後だ」という感覚を持ちながら生きてきた。戦後にどう生きたらいいかがわからない「平和孤児」になってしまった。戦後の復興の方向を間違えたことで日本人らしさを失ってしまったと強く感じ、特に東日本大震災後は復興を正しくやり直していけるのではないかと考えて、世界中で戦争の気配の立つ現状を変えるために戦争映画を作るようになった経緯を話している。

 映画の役割のひとつには、多くの人が無自覚でありながらなんとなくおびえていたり、違和感をおぼえているものの正体をおもしろおかしく提示していくことがあります。(本文より)

 新作『海辺の映画館―キネマの玉手箱』も戦争の歴史をたどりながら、それを無声映画やトーキー、アクション、ミュージカルなどの多彩な手法でエンターテインメントとして見せながら、平和について考えさせられる長編大作となっている。

 映画はジャーナリズムでもあります。
 映画に携わるジャーナリストとしては、伝えるべきことをいかに伝えていくべきかを考えて、できるだけ影響力を大きくする方法を考えていくべきです。

(中略)
 映画には戦争を体験した先輩が積み上げてきた知恵と工夫の歴史があります。そしてなにより「戦争なんて嫌だ!」というフィロソフィーがあります。(本文より)

 いま日本も世界も先の見えない大きな困難の中にある。大林監督が愛した映画も映画界も大変な状況になっている。こんな時代を大林監督がどれだけ予見していたかはわからないが、元気をなくし、迷っている私達を応援してくれる最後のメッセージを是非受け取って欲しい。

映画では、平和を引き寄せられます。
本当にそれができるんだから。
頼むよ、みんな。(本文より)

『最後の講義 完全版 大林宣彦
著:大林宣彦
出版社:主婦の友社
装丁:単行本(ソフトカバー)208P
発売日:発売中

『最後の講義 限定セットBOX 完全版 DVDつき』
著: 石黒浩 大林宣彦 西原理恵子 福岡伸一
出版社:主婦の友社
装丁:単行本(ソフトカバー)4冊合計で768P
発売日:発売中

この記事で紹介した書籍ほか