実在の犯罪首都・ヨハネスブルグ。殺人、強盗、強制性交…行ってはいけない場所で見たものは?

社会

公開日:2020/4/16

『世界最凶都市 ヨハネスブルグ・リポート』(小神野真弘/彩図社)

 南アフリカ共和国にあるヨハネスブルグについてインターネットで検索すると、「世界の犯罪首都」や「リアル『北斗の拳』の世界」といった言葉に出くわす。赤信号で停車すると銃撃される、腕時計をつけていると手を切り落とされて強奪される…そんな噂を見聞きした方もいるかもしれない。
 
 だが実際は一体どんな都市で、人々はどんな意識のもとで生きているのだろうか? 実体験をもとにそれを明らかにするのが、『世界最凶都市 ヨハネスブルグ・リポート』(小神野真弘/彩図社)だ。
 
 著者の小神野さんは、貧困問題やマイノリティの人権などについて取材を重ねてきた、フリーライター兼フォトグラファー。今回は地元新聞の記者として活動ができるインターンの話を受け、人種隔離政策「アパルトヘイト」の終焉から四半世紀経った現地の社会がどのように変化したのかを知るべく、ヨハネスブルグへと飛び立った。

「絶対に行ってはいけない場所」へ潜入したところ…

 ヨハネスブルグには、絶対に行ってはいけない、治安の悪い場所が3つある。アパルトヘイト時代には白人しか住めなかった「セントラル・ビジネス・ディストリクト(CBD)」、かつて随一の繁華街だった「ヒルブロウ」、そして黒人居住区だった「アレクサンドラ」だ。小神野さんはまず、ヒルブロウとCBDが位置するエリアに足を踏み入れることに。

 驚くべきことに、1990年代から2000年代初頭にかけて「世界一の高層スラム」として恐れられていたビル「ポンテ・シティ・アパートメント(通称:ポンテタワー)」では、現在観光名所として見学ツアーが開催されていた。

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 そのツアーに参加した小神野さんが目にしたのは、光と闇が入り混じるヨハネスブルグの現状。かつて、あらゆる悪徳の吹き溜まりのような存在だった「ポンテタワー」は今、人々の希望の象徴になっていた。その一方で、周辺には90年代の「ポンテタワー」と同じような状況を内側に抱え込む“プチ・ポンテタワー”なるものがいくつも存在しているそうだ。

 また、光と闇は“人々の心の中”にもあるようだ。作中で特に印象深かったのが、アパルトヘイト時代に体制への反抗拠点であったソウェトに住むという青年の言葉。観光ガイドとして、生まれ育ったソウェトを他国の人々に紹介する彼は、こんな本音を漏らす。

“「ソウェトの地位向上のために観光ツアーは意味があると思っている。だが、現在の形がベストとは思えない。あれでは『人間サファリパーク』だ」”

 自分でツアー会社を興してソウェトをもっとよくしたいと語る彼の思いは、興味本位で他国の現状を知ろうとする私たちの心に鋭く刺さる。

ヨハネスブルグはただの「ヤバい街」じゃない

 日本で流布される噂とヨハネスブルグの現状にはこんなにも乖離がある。だが、安全な場所ばかりではないということも確かだ。実際に、小神野さんも取材中に暴動に遭遇したり、Uberを使って配車をした際にはドライバーを装った人物から車に乗せられそうになったりと、危険な目に遭った。だが、そうした恐怖の根底にある「社会問題」にこそ、私たちは目を向けねばならない。

 生き残るため強盗に手を染めた青年やアパルトヘイト政策で奪われた土地を取り返したいと願う黒人、白人スラムで暮らす女性など、小神野さんが取材した人々の本音は、どれも聞き逃してはならない本質を備えている。本書は、自分の中にある“無自覚な人種差別”を浮き彫りにし、それに気づくきっかけにもなるのだ。

 この先、私たちは日本にいてもさまざまな人種が共存する多国籍社会に身を置くことになるだろう。そんな時こそ、本書に収められた彼らの声を思い出し、過ちを繰り返さないようにしたい。「世界最凶都市」という呼称の裏にある社会問題は、決して他人事ではなく、ただ興味本位で誇張されるべきものでもないのだ。

 ヨハネスブルグが抱える光と闇。それを知ってもなおあなたは“自分には関係のない「ヤバい場所」”だと呼べるだろうか。

文=古川諭香