これから大切な能力は、英語力より●●力! 協働作業がもたらす演劇教育の効用とは?

暮らし

2020/4/23

『22世紀を見る君たちへ』(平田オリザ/講談社)

 文部科学省のコミュニケーション教育推進にも関わった劇作家/演出家の平田オリザが、大学入試改革を念頭に置きつつ、今後の教育の在り方と向き合ったのが『22世紀を見る君たちへ』(講談社)だ。平田氏が「未来のことは分からない」と序章で記している通り、学校教育の方針は今まさに過渡期にある。

 幼少期からの英語教育が推奨されている一方、今後翻訳ソフトの精度が飛躍的に上がる可能性が指摘されている。あるいは、22世紀に必要になるのは、英語ではなく中国語かもしれない。本書は「いろいろ迷うけれども、こちらのほうがいいと私は考える」という平田氏の思考の軌跡を辿るような構成を採用している。

 昨今の教育改革で叫ばれているのが、“知識・技能”やそれに続く“思考力・判断力・表現力”の他に、“主体性、多様性、協働性”の必要性だ。ここで平田氏は、教員が一方的に教え込む授業から、生徒同士が学び合う授業への転換を提唱する。具体的にはディスカッションやグループワーク、寸劇の創作といった協働作業を授業に織り込むことで、生徒の長期記憶が一気に向上する。平田氏はそう指摘する。

 これは、長年演劇教育を実践してきた平田氏ならではの実感だろう。例えば平田氏は、演劇の授業の際に小学校の教諭に「声の小さい子は、無理して大声を出さなくてもいいですよ」と言う。声の小さい子は声の小さい役をやらせればいちばんうまいのだし、この発想を敷衍すればどんな子供にも居場所を作ることができる。これこそが演劇教育の最大の利点だと平田氏は主張する。

 評者も何度か演劇のワークショップに参加したことがあるが、演劇では喋らないことも表現のひとつであり、うまく嘘をつくことが良しとされる。“正しさ”や“正解”を意識して萎縮することもない。参加者全員の協働により、自然に学びや気づきが訪れるのだ。

 先述の“主体性・多様性、協調性”を測るため、こうした協働作業は一部の大学入試でも導入されている。例えば、卑近な社会問題を記したペーパーが試験会場で配られ、数人のグループが問題を解決に導く。そして、その過程において、受験者間でどうのような対話が成り立っていたか等が問われるのだ。

 ちなみに平田氏は「会話=親しい人同士のおしゃべり」であり、「対話=異なる価値観や背景を持った人との価値観のすり合わせや情報の交換。あるいは知っている人同士でも価値観が異なるときに起こるやりとり」と定義する。今後日本には移民や観光客も増え続け、職場で外国人労働者と話す場面も増えるだろう。そうした際に必要なのは、英語力云々以前に先ほど定義した「対話」にあたるものだ。

 すべての人間に見知らぬ誰かとの対話を強要する社会など息苦しい。それでも、苦手な他者の心理を汲み取り、対話を迫られる局面はどうしても訪れる。だからこそ、異なる価値観を持った人間同士の対話には慣れておかねばならない。学校教育や入学試験に演劇的手法を活用することで、そのためのレッスンとするというのは有効な手立てだと思える。もちろんそれは安易で安直な“正解”のない中での、手探りのレッスンに違いない。

文=土佐有明

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