いまの自分のまま、身体だけ高校時代に戻って人生を『リセット』できたら? 30年前にタイムスリップした女性3人の選んだ道

文芸・カルチャー

2020/4/25

『リセット〈新装版〉』(垣谷美雨/双葉社)

 死を選ぶほど絶望してはいないけれど、できることなら戻ってやり直したい過去がある――そんな誰しも一度は抱くだろう願いを描いた小説『リセット〈新装版〉』(垣谷美雨/双葉社)。まるで違う道を歩んできた47歳の女性3人が、同級生だった高校3年生の時代に舞い戻ってしまい、人生を“リセット”する物語である。

 30年ぶりに偶然再会し、歓楽街の裏通りにある居酒屋〈遠来の客〉を訪れた3人。そこでふと、いちばん恵まれているかのように見える専業主婦の知子が言うのだ。「高校時代からやり直したいと思わない?」と。妊娠して高校を中退したものの、実は妻子もちだった男に暴力をふるわれ、流産した晴美。仕事一筋で成果も出しているのに、女性、しかも独身というだけで馬鹿にされ、母親からも責められている薫。「やり直したくなんかない、いまの自分で満足だ」と見栄をはっても、知子に負けないくらい後悔を抱え、人生にも倦んでいる。そんな3人に初老の店員がさしだした追加オーダーの「高校3年生」。それこそが人生のリセットボタンだった。

 内面は40代のまま、高校3年生に戻った3人は、それぞれ自分が“間違った”と思うポイントをつぶしていく。だが、うぶな頃より計算が働くようになったとはいえ、元の性格は変わらない。長所はもちろん、欠点もなくなるわけじゃないのだ。選択肢を変えたところで“自分”にふりまわされることには変わらない。知子の不満を「もてる者の我儘だ」と思っていた2人も、主婦業や子育て、夫の実家とのつきあいなどを経て、それがどれほどの抑圧を生むか知る。知子は知子で、独身人生を謳歌する一方で、家庭の内側でだけで生きてきた自分がいかに視野が狭かったか、世の中はいかに男女不平等であるかを思い知らされる。

 境遇は違えど3人に共通しているのは、女性であるがゆえの生きづらさ。家庭のことは女がやってあたりまえだと、幼い頃から家庭内で刷り込まれ、父親はもちろん母親さえもそれを是としてきた時代。仕事を続けてもいいけど、そのかわり家のことは手を抜くなという、夫のナチュラルな上から目線。母性は誰にでも生まれながらにして備わっているはずだという思いこみ。結婚していないだけで欠損があるかのように扱われる理不尽さ。

〈古い体質の日本社会で女性として生きることの難しさや息苦しさを感じてきました。その想いを、すべて吐き出したんです〉と著者の垣谷美雨さんは語っているが、男尊女卑の価値観を、昭和という時代の遺物としてでなく、いまなお連綿と続いている悪しき文化の前提として描きだす。そして、そのなかで理不尽に抗おうともがく3人を通じて、自分の納得する人生をつかむために必要な強さを教えてくれる。

 三者三様の選択と生き様だけでなく、いったいどの時点で3人は元の時代に戻るのだろう、もしや戻らずこのまま生き直すのか……? という先の読めない展開にも引き込まれること間違いなしの、タイムスリップ小説である。

文=立花もも

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