35歳独身女性が「腐って発見されない」ための終活をはじめるが――!? カレー沢薫先生の新刊『ひとりでしにたい』

恋愛・結婚

更新日:2021/1/22

『ひとりでしにたい』1巻(カレー沢薫:著、ドネリー美咲:原案協力/講談社)

 人はいつか死ぬ。そのことは十分に理解していても、いざ「終活しよう!」と言われると、具体的にどんな行動を起こせばよいのかわからない人は多いのではないだろうか? 私事で恐縮だが、筆者は現在30代。世代的には、どうしても「終活」より「婚活」の方が身近でホットな話題である。しかしながら、漫画家でコラムニストのカレー沢薫先生のマンガ『ひとりでしにたい』(講談社)を読み、孤独死を避けるため、今からでも取りかかれることは山ほどあることを知り、驚いた。また、老後に対して自分がいかに無知で浅はかであったかも、痛感させられたのである。

 本作のテーマは「孤独死」、「老後」、そして「猫は神」だ。主人公は美術館で学芸員として働く山口鳴海・35歳。アイドルが好きな独身で、購入したマンションで猫と共に暮らしている。そんなある日、鳴海は、バリキャリでオシャレ、悠々自適の独身貴族であったはずの伯母さんが、まさかの孤独死をしたと両親から聞かされる。

 幼い頃は憧れていたものの、定年を迎える頃には、愚痴っぽくなり、避けるようになっていた伯母さん…。しかも、残されたのは「汁」となった遺体と、女性用オナニーグッズという悲劇に衝撃を受けた鳴海は、婚活に勤しもうとするのだが、誰からも相手にされない。おまけに、なぜかやたらと孤独死に詳しい官庁から出向中のエリート・那須田くん(24)に、将来のための婚活を知られてしまい、

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「令和になったって知ってます? 結婚すれば将来安心って昭和の発想でしょ?」

 と指摘される。また、たとえ子どもを産んだとしても、

「子どもが老後の面倒見てくれるとか もはや都市伝説ですよ 自分の生活だけで精一杯で 親の面倒見る余裕なんてないでしょ だいたい子どもが自立するかさえ賭けじゃないですか」

 と、現代の結婚がいかに不安定で将来的に何の保証もない制度であるのか、具体例を挙げながら指摘されてしまう。怒った鳴海は、「だったら私はひとりで生きて ひとりでしにたい(いや猫と!!!)」と、婚活をやめ、老後腐って発見されないための方法を改めて模索するのだが――!?

 本書を読んで驚いたのは、孤独死を避けるには、お金があっても、子どもがいても、あまつさえ、配偶者がいても駄目な場合があるということだ。鳴海の伯母が孤独死に至った理由として、本書では、若い頃、専業主婦で子育てに追われて余裕のなかった鳴海の母親に、「パートに出れば?」「オシャレすれば?」など、マウントを取りつづけ、周囲の人間を大事にしなかったことが原因のひとつとして挙げられている。鳴海は、ひとりで生きようとするのは間違いではなく、ひとりの人ほど、「人」を大切にせねばならないことに気づくのだが、それは口で言うほど簡単なことではない…ということも、本書を読んでものすごく勉強になった点だった。

「人」を大切にするということは、自己の凝り固まった考えを疑い、積極的に情報をアップデートして、周囲への十分な配慮を意識して行わないと、余計に誰かを傷つけてしまうことにもなりかねないのだ。比較的裕福な家庭で育ったため、奨学金など、経済的な事情を抱えて生きる人を、意図しないところで傷つけてしまった鳴海を見て、私も猛省した。

 本書は他にも、今から孤独死を避ける方法、例えば生活保護や介護など、助けを求める際の窓口の場所などが、ギャグを交えながらも、具体的に、真摯に紹介されている。いつか死ぬ予定のある人、すなわち全人類が、今をよりよく生きるためにも、一度ならず二度三度読んでほしい「孤独死」のマンガである。

文=さゆ