運を味方に幸せになれるか、しっぺ返しをくらうかは自分次第!「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」の店主が誘う“運くらべ”
公開日:2020/5/8
人間、欲をかくとろくなことにならないのは、万人の知るところだろう。なんでも願いを叶えてくれる不思議な駄菓子を売ってくれる店が舞台の「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズ(廣嶋玲子:著、jyajya :イラスト/偕成社)。
店主の紅子に、いや、銭天堂という店そのものに選ばれた客だけが足を踏み入れることができ、なおかつ望む駄菓子をなんでもひとつ、小銭一枚で手に入れることができる。お客には、老若男女はもちろん、善人か悪人かも問われない。誰にでも等しく運は授けられるのだが――その使いようによって結末は、類まれなる幸福にも目もあてられない不幸にも変わるのだ。
たとえばプロの泥棒オヤジ・秀元は、盗みの名人になりたいと「怪盗ロールパン」(2巻収録)を食べる。おかげでどんなに厳重な警備もかいくぐり、予告状を出してもつかまえられない“怪盗ルパン”として名をはせるようになったが、かつて紅子の店で「正義の味方 ヒーロー刑事プリン」(2巻)を買った三河刑事の強運には勝てず、最後はつかまってしまう(矛と盾の故事みたいな話である)。
ほどほどのところでやめておけば、難事件にひっぱりだこの三河に目をつけられることもなかったのに、調子に乗るから運を損なうことになる。
身内のコネで一流美容院に就職した北島は、客の要望もろくにきかず、先輩の忠告や教えを無視して、努力は一切しないくせに、後輩にはいばりたがるので、人望も実力も皆無どころかマイナス。それでも悪運の強さで、銭天堂にたどりつき、何をやっても絶賛される「カリスマボンボン」(1巻)を食べ、一躍カリスマ美容師に。おかげで自分の店も持てて大繁盛……なのだけど。罪悪感はなくたって、自分に“何もない”ことくらいはわかっている。
カリスマボンボンの効力が切れたら? この栄誉を失ったら? 不安と焦りが努力する方向に向けばいいのに、さらにラクして安寧を得ようとするものだから、結局はすべてを失うはめになってしまう。
しかもこの秀元も北島も、自分の不幸は紅子のせいだと逆恨みして、のちのち復讐をはかってくる。とくに北島は、復讐までも人任せにしたため、「しっぺがえしメンコ」(2巻)という駄菓子を通じて、最後までしょうもない自滅を導くこととなる。
勘違いしてはいけない、銭天堂のモットー
……だが。勘違いしてはいけないのは、紅子は決して「因果応報」など望んでいないということだ。銭天堂のモットーは、お客を幸せにすることではなく、あくまで願いを叶えることのみ。悪人をこらしめる意志もなければ、善人を救いたいとも思っていない(ルール違反にはお仕置きするし、ときどき手を差し伸べることもあるけれど)。彼女が見たいのはただ、人間が幸運をうまくつかいこなせるかどうか。どれほどの人間が、我欲とバランスよくつきあえるものなのか、ということなのである。
身体的に大きくなりたかったのに、“大物になりたい”と勘違いした紅子に「ビッグリもなか」(6巻)を売られた少年は、悩みが消えて自分らしくのびのびふるまえるようになった。紅子からテストのヤマ勘があたる「ヤマ缶詰」(4巻)を買った別の少年は、勉強しなくても点数があがる「ずるずるあげもち」(4巻)というより安直な駄菓子を「たたりめ堂」から買ったがために、最後にひどい目に遭ってしまう。
ここに来るチャンスはすべての人にあるんでござんすよ。運は、きまぐれ。きょうや明日はついてなくても、ある日とつぜん、幸運にみまわれるかもしれない
と紅子は言うが、善人が報われるのではなく、きまぐれな運を味方につけて自分で乗り越えようとする人に幸せは訪れるし、すべてを運任せにしていると、きまぐれに裏切られることもある、ということなのだろう。そんな教訓はもしかしたら、子どもより大人の胸に痛切に刺さるかもしれない。
文=立花もも
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