発達障害を抱える人のための生きづらさ解消ライフハック! 苦手なことは「発達ハック」で乗り越える

暮らし

公開日:2020/5/12

『発達障害かも? という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』(姫野桂/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 なぜか仕事が上手くいかない。なぜか人間関係に失敗しがち。なぜか日常生活が苦しい。毎日辛いことばかりなのは、私だけ?

 発達障害というワードが一般化して、多くの人々の生きづらさに焦点が当たるようになった。いつも誰かに注意されていた苦手なことには理由があり、決して自分のやる気や人格に問題があるわけじゃない。苦手の原因が判明するだけで、どれだけの人の気持ちが救われたか計り知れない。

 その一方で別の問題が可視化され始めている。発達障害による苦手なことにどのように向き合うかだ。発達障害の一般化で気持ちが救われても、日常生活の困難が解消したわけじゃない。

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『発達障害かも? という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』(姫野桂/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、まさしく発達障害を抱える人の日常を快適にする提案がなされている。著者は自身も発達障害を抱える姫野桂さん。

 姫野さんは、本書で苦手なことを工夫で乗り換える「発達ハック」を提唱し、生きづらさ解消に活かしてほしいとつづる。本書で提案する「発達ハック」は、姫野さんが考案したものだけでなく、姫野さんの知人をはじめとする100名以上の発達障害当事者から集めたものを紹介している。したがって十人十色のライフハックがつめこまれており、誰が目にしても「これは使える!」と納得できるだろう。

 本稿では発達ハックをいくつか抜粋するので、上手くいかない毎日の解決策としてぜひ参考にしてほしい。

まず自分の苦手をしっかり理解して受け入れよう

 本書の発達ハックをご紹介する前に、大事な大前提をお伝えしたい。もしあなたが「毎日が息苦しい」と悩んでいるとして、その息苦しさの原因は何だろうか? 出勤前の起床が辛いのか、仕事で数字を処理する業務が辛いのか、人間関係にいつも疲弊して辛いのか。それとも全部まとめて辛いのか。

「ハックまでたどり着けない人がいるのも問題なんだよね……」

 発達障害を抱える当事者仲間は、姫野さんにこんな言葉を口にしたという。発達障害と一口に言っても、その特性の抱えようは人それぞれだ。

 多動や不注意が表れるADHD、コミュニケーションが苦手で独特なこだわりを持ち反復行動を好むASD、知的な問題はないのに読み書きや計算が難しいSLDなど、発達障害にはいくつか特性があり、人それぞれグラデーションのように混ざり合って表れる。

 だから自分の苦手なことを正確に自認できず、とにかく克服しようと心身をすり減らして努力を続ける人が多い。大切なことは、まず自分の苦手をしっかり理解して受け入れること。そして「できないことがある=ダメ人間」と自分を責めるのではなく、自分に合った発達ハックを見つけだし、毎日を快適にすることだ。

遅刻や予定のすっぽかしが多いときは?

 ここからは本題となる発達ハックをご紹介しよう。もし遅刻が多く、スケジュール管理が苦手で、時計を読み間違えたり、予定をすっぽかしたりしてしまう悩みがある場合はどうすればいいだろう? 本書では5通りの発達ハックが紹介されている。たとえばこんな感じ。

「予定が入った瞬間に手帳アプリに予定を記入し、アラームをセットする」

「遅刻防止には、出発の1時間前から、20分ごとにアラームをセットする」

「Googleカレンダーに予定を登録し、1週間前、1日前、12時間前、1時間前に通知してもらう」

上司の抽象的な表現が理解できないときは?

 もし抽象的な表現を理解するのが苦手で、上司の言う「あれ」「それ」「さっき」「今度」が理解できず、その意味を確認するたびに上司から怒られてしまう場合はどうすればいいだろう?

 こんなときは「必ずメールなどで確認」するとよいそうだ。口頭で尋ねると、機嫌が悪いときに怒られてしまったり、「言った」「言わない」のトラブルにつながったりすることがある。また口頭は抑揚や表情、ボディランゲージなどのニュアンスで伝えようとするので、どうしても抽象的な表現が混ざりがち。

 そこで仕事の依頼を受けたときは、必ず相手に確認のメールを送ろう。文章ならば必然的に詳細を記載することになり、わかりやすさにもつながる。証拠として残るのでトラブル防止策にもなる。上司以外の相手ならば、メールのCCに上司を入れて確認してもらう方法もある。

会話が続かなくて悩んだときは?

 もし雑談が苦手で、ちょっとした会話も続かないことに悩んでいるときはどうすればいいだろう?

 こんなときは「聞き役に回る」という方法がある。誰だって聞き上手な人に話を聞いてもらうと、気分が良くなり、安心感に満ちて、自然と互いの関係が良好になる。

 聞き上手になるために、口ぐせや声のトーン、リアクションを研究する方法もある。「さすがですね~」や「なるほど~」など、コミュニケーション能力が高い人を観察し、その人の口ぐせや相づちのタイミング、声のトーン、リアクションの大きさなどをマネてみるのだ。

 会話は人間関係を築く上でベースとなる重要な要素。どうしても最低限の能力を必要とされるだけに、無難な手段だけでもマスターしておきたい。もし話すことに不安があったり、何かしらの原因で会話が続かなかったりする場合は、聞く能力を向上させてみよう。

頭が疲れて判断力が落ちたときは?

 もし頭が疲れて、何かを考えたり判断したりすることに限界を感じたときはどうすればいいだろう?

 姫野さんによると発達障害傾向のある人は、情報の取り込みすぎで、脳内処理が追いつかないことが起きるそうだ。そこで一度トイレなどの個室にこもって、イヤフォンや耳栓をして、脳の刺激の負担を減らしてみよう。個室が難しいならば、数分間目をつむるだけでも変わるという。

 また電車やバスなど、公共交通機関による移動で、過剰なまでに疲れてしまう場合は、ノイズキャンセリングイヤフォンをしたうえで、スマホや読書に集中して、意識的に視野や聴覚を狭めるようにしよう。

 発達障害傾向のある人は、そうでない人より、聴覚や視覚、嗅覚などが過敏で脳内の処理が追いつかず、疲れやすい傾向にある。落ち着かない環境では、余計な情報を遮断することにポイントがあるようだ。

困ったときは人に頼ろう

 発達障害があろうがなかろうが、私たちの生活には苦手や面倒があふれている。それらを適切に対処して毎日を快適にするのがライフハックであり、誰もが当たり前のように実践して日常をどうにか乗り切っている。

 もし「毎日辛いことばかり」と思い悩んだときは、その気持ちにふたをするのではなく、どうすれば解決できるのか模索してみてはいかがだろう? それを提案するのが本書であり、日常の困難を打ち消すヒントがつまっているはずだ。

 それでもどうしても手段が思い浮かばないときは、誰かに頼ってみよう。人間は社会を築くことで他の生物より優位性を見出し、生き残ってきた。誰かに何かをお願いすることは、人間としてごく自然な行為である。困ったときは誰かに頼る。これこそが人生において最も大切なライフハックなのかもしれない。

文=いのうえゆきひろ