一撃で19億円稼いだ個人投資家cis――“生ける伝説”と呼ばれた男が元手300万円から資産230億円到達まで貫いた投資の大原則

ビジネス

公開日:2020/5/11

『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』(cis/KADOKAWA)

 コロナショックの影響であらゆる国の株価が一時大幅下落した。その後それぞれの国から飛び出る良いニュースと悪いニュースに連動するように、株価が乱高下して市場は大混乱。この事態に大儲けした人がいる一方、多くの個人投資家は大損して泣いているのではないか。

 こんなとき気になるのが、投資家の間で知らぬ者はいない、個人投資家cis(しす)さんの動向だろう。cisさんは21歳のとき300万円を元手にして投資を始め、独特の投資スタイルを貫いて順調に資産を伸ばし、2018年末には総資産230億円に到達した。いわば投資界の「生ける伝説」である。

『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』(cis/KADOKAWA)は、cisさんの投資ノウハウを惜しみなく紹介する1冊だ。本書は2018年末に出版されたので、コロナショックの状況下においてどこまで応用できるのか、素人の私では判別つかない。しかしcisさんの生き方も含めて、非常に興味深い記述がいくつもあった。

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cisさんが230億円の資産を築くまで常に守り続けた大原則

 cisさんの投資哲学は非常に単純明快である。その大原則を抜粋しよう。

上がっている株を買う。下がっている株は買わない。
買った株が下がったら売る。

 もちろんこの他にも投資のテクニック論はいくつかあるが、cisさんが230億円の資産を築くまで常に守り続けた大原則がこれだ。

 株で利益を上げるには、安く仕入れ、高く売却するのが、一番簡単で分かりやすい。そのため多くの投資家は株が落ち目のときに仕入れ、値上がりを待つ方法を選ぶ。しかしcisさんの考えでは「逆張り」もいいところで、最もやってはいけない投資法だそうだ。

 cisさんにとって投資で一番大事なのは「迅速な損切り」。目先の利益や勝率にこだわるのではなく、大損せずにトータルで利益を出すこと。だから「ここで損切りしたら負けが確定するな。値上がりするまで待とう」という感情は一切捨て、上がったら購入し、下がった瞬間に売却を徹底。どこまでも合理的な判断を貫く。

 けれどもこの大原則だけで、元手300万円から日経平均を動かすだけの資産は得られない。常に相場や報道に張りついて、マーケットの動向や世界経済の行方を嗅ぎとり、先回りして大勝負する勘所も必要となる。それが本書で紹介されている「一撃19億」エピソードと「ジェイコム株誤発注事件」である。

 ただしこれらは本稿で紹介しない。理由は簡単、素人がマネするには危険すぎるからだ。いや、cisさんにとっては合理的な判断を貫いた「絶対に勝てる大勝負」だっただろう。それでも相場の勘所をつかめるcisさんだから叩きだせた利益であり、詳細が知りたい読者はご自身で本書を手に取って、自己責任の範囲でマネしてほしい。

投資で勝つコツは「今ある優位性」に張ること

 本書の後半では、cisさんの生い立ちや人生観にもふれる。小学生の頃には、駄菓子屋の当たりくじを利用して、数百円単位でお金を稼いでいたのだから驚きである。しかしcisさんは金儲けがしたかったのではなく、物事の攻略法や期待値を計算して、より得られる利益が大きくなるよう試行を繰り返すことに興味があった。簡単にいえば、ギャンブルやゲームが大好きだったのである。

 その素質は中学3年生から始めたパチンコで開花を始め、大学生だった20歳にして貯金2000万円に到達したという(当時は世の中の決まりがゆるかったことも付け加えておく)。

 しかしパチンコで稼ぐことにも限界を覚え、21歳のとき、ついに株を始めた。ところが当初は負けが続き、元手300万円がみるみる溶け、ついには手をつける予定のなかったお金も追加し、とうとう1000万円以上溶かしてしまったそうだ。

 連敗続きのcisさんが株で勝ち始めたきっかけが、当時の匿名掲示板「2ちゃんねる」のオフ会だった。ここで個人投資家界の猛者たちと出会い、cisさんの投資人生に転機が訪れる。本書より2つ抜粋しよう。

今でも思うけど、基本的にすごくうまいトレーダー以外は、投資の世界で勝つか負けるかは紙一重で、たまたまの結果。
市場金利、あるいは経済成長率とか国債金利やインフレ率とか、そういう経済指標で自動的に上がる分以上に勝てる投資はたまたまでしかない。うまくいっているようでもリスクが見えていないだけか、詐欺に遭っているかの、どちらかだと思う。

割安とか割高とか、将来のこの会社は業績が伸びるはずだとか、そういった要素は、自分が勝手に思い込んでいるに過ぎない。勝っている人ほど、短期の値動き、かつチャートや指数組み入れなどの理由がある株を買っていた。
「今ある優位性」に張る。
そのオフ会をきっかけに、長期トレードをやめて、値動きだけを見る短期トレードに変えた。すると、それまで負け続けていたのが嘘のように連戦連勝になった。

資産230億円の等身大の生活

 それからcisさんは「生ける伝説」への道を驀進していくのだが、私たちが考えるほど大富豪たる生活を送っているわけでもないようだ。

 たとえば2008年に起きたリーマンショックで不動産価格が暴落した。そこでcisさんは「勉強」と「家の近くにコンビニがなかったので、近くのビルを買ってコンビニを入れたい」というゴージャスな理由で不動産投資を始めたのだが、「やめておけばよかった」と後悔する。時価で20億円を超える不動産を入手したものの、表面利率が2%を切る上に、大家としての義務に追われて煩わしく、投資用の現金に素早く替えることもできないからだという。

 さらに自宅は賃貸、服はユニクロ、芸能人などとの交際もなく、物欲がないのか別荘やクルーザーも所有していない。スマホゲームには9000万円の課金をしているようだが、できるだけ浪費することなく投資にお金を回したいそうだ。どうにも資産230億円の生活とかけ離れる。

 女性関係もある意味ですごかった。なんと「2ちゃんねるで彼女を募集」して、1000人以上の女性と出会った。ところが実際は、「オープンな関係で募集したので下手な遊びができず、さらに毎回ホテルに流れていると、多数の女性と出会う体力が保てない」という理由で、基本は食事デートのみ。ところが女性としては230億円の男を逃すまいと、あの手この手のアピールで迫ってきたようで、ずいぶんと疲弊したらしい。

 生ける伝説と呼ばれた個人投資家は、私たちが思うほど想像を超えた存在ではないようだ。ただその代わり、ものすごく本質にこだわる一面を随所に感じる。お金を稼ぎたいのではなく、常に投資で勝つ方法を考える姿勢。豪勢な生活に溺れることなく、自分が満足する等身大の生き方をしっかり貫いている印象を受けた。

 2018年末から約1年半が経ち、コロナショックを迎える今、cisさんは世の中をどのように見つめ、どんな相場を張っているのだろうか。多くの投資家は今も相場のチャートに張りついているだろうが、わたし個人としてはcisさんの動向に張りつき、彼と同じ目線で世界を見つめたい気持ちである。

文=いのうえゆきひろ