人気作家・山田詠美が紡ぐ、今を生きる女性へのメッセージ集『4 Unique Girls~特別なあなたへの招待状』

文芸・カルチャー

公開日:2020/5/11

『4 Unique Girls~特別なあなたへの招待状』(山田詠美/幻冬舎)

 読み返したい箇所にふせんを貼っていると、本がふせんだらけになってしまった。『4 Unique Girls~特別なあなたへの招待状』(幻冬舎)の著者、山田詠美さんのニックネームはAmy(エイミー)。彼女の文章はわかりやすく、読んでいて心地よくなる。

“いい加減、結婚を「可能」「不可能」でジャッジするのって止めませんか“
“本当に良い仕事してる女は、ことさら自分のすごさを語ったりしないよ”
“生理(注:原文より”感覚的、本能的、肉体的な好き嫌いを意味する“)の一致が最初に来ない結婚は不幸になるよ”

 Amyは「多数派の人たちにおもねらなくても良い」と私たちに教えてくれる。多数派の意見に染まることは、とても楽だ。だが、失うものも大きい。

 1985年に小説『ベッドタイムアイズ』で文藝賞を受賞して以来、現在も小説やエッセイを書き続ける山田詠美さん。2009年、雑誌『Ginger』創刊と同時に、新しいエッセイの連載を開始した。それが「4 Unique Girls」である。

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 2014年、このエッセイは『4 Unique Girls 人生の主役になるための63のルール』というタイトルで発行された。その後も『Ginger』での連載は続き、続刊『4 Unique Girls~特別なあなたへの招待状』が発行されたのは今年2月。全67編のエッセイが収録された。

 SNSをせず、インターネットもあまり見ない著者。しかし本書には、読者へのメッセージと共に、世の中の時事を明確にとらえたテーマのエッセイもある。

 たとえば、著者が、あるテレビCMの表現を不快に感じる場面がある。友人は著者にこう伝える。

“不快感を刺激することによって印象付けるという手法がある”

「なるほど」と著者とともに読者も思うわけだが、よく考えると、この手法は炎上商法と非常に似ている。時事を取り入れながら著者は、ふだん私たちが抱いている違和感をも言語化してくれる。たとえば「妊活」という言葉について著者はこう述べた。

“子を宿すために大変な苦労をしていた夫婦を知っていると、ひとまとめに活動扱いするのは、すごく抵抗がある”

 続いて「終活」「パパ活」「ママ活」という言葉への批評が続く。ただ誤解しないでほしいのだが、著者は「○○活」自体の行為や内容に関しては一切否定していない。

“私が問題視しているのは、そのネーミングを良しとする言語感覚なのだ。(中略)作家の故・森瑤子さんは病に倒れた時、最期のために自分の遺影までトリミングして逝った。あの美学を終活だなんて呼ばせたくない”

 これを読んで我に返る。全てをキャッチーな流行語にまとめることで、私たちは今までいろいろなものを失ってきたのではないだろうか。

 共感と、ふと我に返ること。その両方を味わえる本書。生きづらさを感じている女性の心を楽にしてくれる言葉だけではなく、自分が言葉をどう扱い、それが自分自身にどのような影響を与えてきたのかをかえりみるためのヒントがたくさん詰まっている。

文=若林理央