看護師時代にやらかしました! 発達障害を公言している漫画家が赤裸々に語る病院ノンフィクション

マンガ

更新日:2020/6/5

『ドン引きナース!』(沖田×華/ぶんか社)

 10年ほど前に私が肺炎で入院したときに担当についた新人の看護師が、絵に描いたようなドジっ子ナースだった。私との挨拶の際も、下げた頭を点滴袋にぶつけ、慌てて起こした体が戸棚に当たりドンガラガッシャン。採血の際には止血ガーゼの用意を忘れ、私の腕に針を刺したまま両手を離せなくなり、ナースコールを押すよう頼まれた。このコロナ騒動のさなか、あのナースも頑張っているのだろうか、それとも転職しているかなと懐かしんでいたら、たまたま見つけた『ドン引きナース!』(沖田×華/ぶんか社)というタイトルに目を引かれ、思わず手に取った。

 作者は発達障害を公言し自虐ネタを描いている“モロ出し漫画家”で、イベントでは豊胸手術を受けた胸もモロ出しにした模様(ちなみにその豊胸手術を受けたときのエピソードも本書には描かれている)。そんな作者が18から22歳までの4年ほど看護師をしていた体験談から読者がドン引きするエピソードを選りすぐって紹介しており、その内容たるや、白衣の天使のイメージを一欠片さえも感じさせない清々しさが素晴らしい。

子供が吐くほどのスカしっぺ

 トイレに行く暇も無く小児科で働いていたら、患者である幼児をベッドに寝かせようと腰をかがめた拍子に、長く超臭いスカしっぺ。「尋常じゃないニオイが部屋中に広がりました」とのことで、その中でも黙々と診察していた医師からは「あとでオムツの中も見てあげて」と云われ、そのまま幼児のせいにしてしまった。あまりの臭さに、その幼児に付き添ってきていた上の子供は吐いてしまい、「本当にごめんね…」と心で謝る作者の後ろ姿に哀愁は漂わない。

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交通事故、誰が被害者で何をしたら…?

 勤めていた病院の建物は大通りに面していて、見晴らしが良かったのが仇になったのか、3年間に5回も交通事故の瞬間を目撃してしまったという。その中の1件は、お昼のお弁当を白衣のまま買った帰りで、自転車に二人乗りしているカップルが車にはねられた。すると周囲から、「あんたナースでしょ」「何とかしなさいよ」とでも云われているかのような視線を向けられてしまう。内科専門の作者は戸惑いつつも、そこは「私がいかなきゃ誰がいく!!」と職業意識を発揮して、まずは意識を確認しようと被害者に駆け寄ってみれば、なんと2人は加害者である運転者に謝りつつ逃げるように立ち去ってしまった。

 あっけにとられている作者に現場にいた人から、「どーする? ケーサツ呼ぶ?」と問われて、被害者はいなくなってしまったから「呼ばなくていいんじゃないですかね」と答える始末。呼ばないと駄目ですよ、と読みながらツッコミを入れつつページをめくると、今度は運転者が事故を起こしたショックのあまり過呼吸になってしまい、その処置に当たることに。ちなみに、作者が持ち帰るはずだったお弁当は、現場で他の車にひかれて「即死しちゃってました」というオチ。

取れかけた乳首を絆創膏で貼り付ける

 モロ出しの作者は、母親や弟といった家族のエピソードまで赤裸々に描く。描きすぎて、母親には怒られているようだが、もちろんその程度で怯むような作者ではない。それどころか、友人が自転車で転倒し、乳首が皮一枚でなんとかつながっている状態なのを見て、医師が「乳首とか性器はほかの部分より再生力が強いからね」と云っていたのを思い出し、乳首を元の位置に戻して絆創膏で貼り付けるという大技を繰り出した体験談も描く。後にその友人は無事に結婚して子沢山となり、めでたしめでたしと思いきや、乳首の位置がちょっとズレていたことを教えられるのであった。

 数少ない感動エピソードと云えるかどうか、大変さが分かるのは「いろんな病気を患者からもらっていました」の回。ある日、手が痒いと思っていたら足にも舌にも発疹が現れて、それは「手足口病」だった模様。「おもしろいぐらいに」流行りの病気をうつされまくったと、まるで愉しかった想い出のように語る作者の強メンタルに、ドン引きしてしまうのと同時に感心もした。

 作者の代表作は他にもある。NHKでドラマ化され、ご存じの方も多いかもしれないが、産婦人科に勤めていた頃の体験談をもとに、生まれることのできなかった命と生まれた命を描いた『透明なゆりかご』だ。そちらで感動した読者に本作は毒気が強いかもしれないが、こちらでドン引きしてしまった読者には、ぜひ対で読むことをお勧めしたい。

文=清水銀嶺