イケメンより「ONE TEAM」――あの熱狂を冷めることなく学びにつなげる! ラグビー日本代表・ラファエレ選手の『つなげる力』

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更新日:2020/5/13

『つなげる力 最高のチームに大切な13のこと』(ラファエレ ティモシー/ハーパーコリンズ・ジャパン)

 バラエティ番組に出演した姿を見たとき、はたと気がついた。顔立ちといい、スタイルといい、ラグビー日本代表ではダントツで整った…つまりは“イケメン”じゃないか。ラファエレ ティモシー選手のことだ。他のスポーツなら、大いにメディアももり立てたであろう要素。それが“埋もれた”のは、彼らが「ONE TEAM」で日本中を感動させたからだろう。

 生まれた国も育ちも違う多様な選手たちが、日本代表としてひとつになって快進撃をみせた昨秋のラグビーワールドカップ。思い出されるのは、それぞれが決死のプレーをみせながら、多彩な攻撃で勝利を重ねていったチーム全員の働きすべて。スタンドの地鳴りのような応援、画面の前でも狂喜乱舞したファン。ONE TEAMは、選手のルックスや複雑なラグビーのルールを凌駕し、一体となった戦いぶりで日本中を釘付けにした。

 番組でもシャイで目立つタイプに映らなかったラファエレ選手が、『つなげる力 最高のチームに大切な13のこと』(ハーパーコリンズ・ジャパン)を出版した。

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 本書でラファエレ選手は、「僕のように特別でない選手でも、いろんな選手が集まったラグビーでパスをつなげばトライが生まれる。努力を続けて、ひとりひとりが力を発揮して、ひとつにつながれば、大きな成果が出せる。つなげる力があれば、どんな目標も達成できると人々を励ましたかった」と明かす。

 サモアで生まれ、ニュージーランドでおじの養子となり、日本で帰化した同選手。生まれ故郷の両親、育ての親であるおじ夫婦、ラグビーを通じて出会った日本人など、彼の周りでは国境も海も人々はゆうに超えてつながっている。互いのベストを願い、支え合ってきた家族や友人など、ONE TEAMは彼の生き様にもにじみ出ている。

 だが意外にも、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる日本代表チームがひとつになったのは、2018年以降という。多くの個性と才能豊かな選手たちが結束する象徴となったのが、「グローカル」。同年秋に和歌山で行われた代表合宿で生まれた言葉だという。

「グローカル」とは「グローバル」と「ローカル」をもじった造語で、さまざまな国で生まれた選手たちが、日本というひとつの地域に根ざしてひとつになるという意味だそうだ。ラファエレ選手いわく、「僕がプレーする日本代表の良さは、派閥を作らず、誰とでも忌憚なく話し合えること」。その上で、ポジションごとに置かれた複数のリーダーが、それぞれのスタイルでチームメイトを支え、フィールドの内外でまとめあげていった。

 2019年に日本中を熱狂させた代表チームは、31人中15人が海外出身選手で歴代最多だったが、2015年大会に続いて主将を務めたリーチ・マイケルは、なかでも尊敬を集める最高のリーダーだ。逸話のひとつが、リーチ選手がパワーポイントで資料を自作し、外国出身の選手たちに日本の歴史をレクチャーしていたこと。例えば、パシフィック・ネーションズカップに入ってから、釜石でフィジー代表と戦う前は、東日本大震災や津波について、大阪でトンガ代表と対戦する前には日本ラグビー界とトンガ人留学生のつながりを、フィジーでアメリカ代表と当たる前には原爆について、といった具合に何度もみっちり日本語で「授業」していたという。ラファエレ選手は、リーチ選手の一体どこにそんな時間があったのかと驚きとともに明かす。

 こうしたエピソードのように、読むほどに胸が熱くなる裏話も多いが、ワールドカップのピッチに立っていた当人だからこその興奮が蘇る裏話も満載だ。アイルランドにスクラムで勝ったときのこと、決勝トーナメント進出を決めたスコットランド戦での「サインプレー」の裏話は、今また読んでも鳥肌が立つ。

 彼らONE TEAMがすばらしいのは、この大舞台に立つことがなかった選手たちにも、リスペクトと感謝を惜しまず、記者会見でもコーチや選手らが繰り返し讃えていたところにも表れている。実際、試合に出なかった選手たちが、仮想対戦相手チームの役割をまっとうしたおかげで日本代表が緻密な戦略を実行できたことは、同書にも克明に綴られている。その結果、あのスコットランド代表から「日本は毎週、違う戦略を立てる。分析がしづらいよ」と最高の賛辞を送られたことも。

 本書にある「13のこと」は、今のコロナ禍にも活かせることばかり。なかでも、「3敬意を払う」「4違いを受け入れる」「9うまくいかないときを受け入れる」は、ことさら心に留め置きたい。

 来日当初は、日本語もわからず、慣れない箸で手がしびれていたというラファエレ選手も、今では焼肉とサーモンの寿司が好物でこよなく日本を愛するまでに。食べ物の美味しさ、人の温かさ、自然の美しさや、街の清潔さについても触れられている。

 わずか半年ほど前、こうした思いは日本中で多くのラグビーファンをはじめ盛り上がった話題だった。だが今は長引く自粛から、多くの店が悲鳴をあげ、コロナ差別やコロナ自警団など、胸がふさがれる話も後をたたない。本書には、ワールドカップで湧いたプラスの感情を呼び起こし、困難を乗り越えるためのヒントが詰まっている。

文=松山ようこ