サウンドとイラストで読む、新しいホラーファンタジー

小説・エッセイ

公開日:2012/6/10

火山人間

ハード : iPad 発売元 : Flammarion S.A.
ジャンル: 購入元:AppStore
著者名: 価格:0円

※最新の価格はストアでご確認ください。

例えば、不慮の事故で亡くした家族が目の前に現れ、生前と変わらぬ微笑みをかけてくれたとしたら、私はきっと戸惑いながらも再び出会えたことに感謝すると思います。

けれど、元の生活に戻れないことは知っている…。生きている人の世界と死んでいる人の世界は相容れないのだな、とこの物語を通して痛いくらいに感じました。この作品は決して不条理ではないけれど、救いのない物語です。

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「火山人間」は主人公の少女の目線から語られる、やわらかくも、せつないストーリー。火山の火口に転落し、死んでしまった弟が小さな幽霊となって少女の前に舞い戻り、ふたりは再会を果たします。

『NUIT DU LIVRE – Paris 2012 電子書籍部門 大賞作品』と聞いても、私と同じようにピンと来ない方が大半ではないでしょうか。タイトルから察するにフランスの書籍の中でも、電子書籍の部門において賞された作品ということが分かります。私も「フランスでこれだけ賞賛されているのだから、きっと素晴らしく面白いに違いない」と期待を寄せて購入しました。結論から言うと…非常に感動しました。これからこの「火山人間」の魅力を私なりにお伝えしたいと思います。

まず、この作品の注目すべき点は“視覚”“聴覚”の調和です!
ホラー・ファンタジーの世界観をイラストと音楽でも表現し、ストーリーの中に絶妙に織り交ぜながら物語は展開していきます。これだけ質の高い多くのイラストや音楽を駆使していても“読み”の邪魔にならないのが不思議なところで、かつ素晴らしい点だと思います。BGMは永遠流れ続けているのですが、風が静かに吹いているような雪山を連想させたり、またその中に心臓の鼓動が脈打つささやかな音が含まれています。この深いサウンド味わうためには絶対にヘッドフォンをつけないと損です!

そして、冒頭でこれらイラストや音楽の軸となるストーリーに触れましたが、“生“と”死“を直接題材にした物語はデリケートで難しい題です。けれど、誰もが共感できるテーマだとも思います。実際、かなりぐっときます。そして引きずりました…(笑)。個人差はあれど、心に残る後味の強い作品になることは間違いないでしょう。

大切な人の死を経験した人に読んで欲しい。ほろっと涙を誘う1冊です。


”ヘッドホン推奨” 音楽も欠けてはならない この作品の一部

おどろおどろしくも美しいイラストに酔いしれる

章とページをひと目で把握できる

霧の上に文字が浮かび上がっているデザインは特有です