“神隠し”に遭って消えた少年の行方をめぐり恐怖が感染…伝奇ホラーの鬼才の原点が新装版となって登場!

文芸・カルチャー

公開日:2020/5/23

『Missing 神隠しの物語』(甲田学人/KADOKAWA)

 聖創学院大付属高校の文芸部員・近藤武巳は、同じく文芸部員で博覧強記の変人であり、〈魔王陛下〉の異名をもつ空目恭一のファンだった。恋愛否定論者であるはずの空目が、突然「彼女」を連れてきたことに、文芸部の一同は驚愕。その翌日、空目は姿を消してしまう――。

『断章のグリム』(電撃文庫/KADOKAWA)、『ノロワレ 怪奇作家真木夢人と幽霊マンション』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)などで知られる伝奇ホラー小説界の鬼才、甲田学人。彼のデビュー作にして、累計150万部を超える大ヒットシリーズとなった「Missing」の第1巻、『Missing 神隠しの物語』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)が、このたび新たな装いとなって発売された。

 幼い頃に弟と共に“神隠し”に遭遇し、自分だけが生還して、弟は消えたままという過去を抱えている空目。その異様な体験によって怪異や魔術に関する知識を膨大なほど吸収するようになり、どこか常人ならざる雰囲気をまとっている。

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 そんな空目が再び“神隠し”に遭ったことから、物語は動きだす。

 武巳をはじめとする文芸部のメンバーは、2組に分かれて捜索を開始。武巳と、空目の幼馴染みの村神俊也の男子チームは霊能者と接触する。一方、武巳と同じく空目のファンである日下部稜子と、部内きっての毒舌家・木戸野亜紀は、憑き物祓いで知られる寺に相談し、怪異現象を扱う極秘機関を紹介される。

 人間が忽然と消える現象、“神隠し”を題材に、都市伝説や民俗学的な知識をちりばめてストーリーは縦横無尽に展開する。空目はいったいどこへ行ったのか、あるいは本当に消えてしまったのか。彼を捜しながら、武巳たちそれぞれにとっての空目との関係性が次第に明かされてゆく。

 たとえば、自分を極めて平凡人だと思っている武巳にとって、変人の極みである空目は憧れの対象であること。また、クールビューティーな毒舌キャラとしてふるまっている亜紀は、過去にいじめを受けた経験があり、自分と同じく周囲から迫害されて生きてきた空目に、ひそかに恋心を抱いていること。空目の痛切な過去を知る俊也も、空目を“魔王様”と呼び慕う稜子も、彼のことを心から心配している。

 序盤以降のほとんどに空目は登場しないけれど、いないからこそ、その存在の大きさがありありと感じられてくる。

 空目失踪のカギを握る重要容疑者として浮かんでくるのは、空目の「彼女」として紹介された、あやめという少女だ。彼女こそが今回の“神隠し”騒動を引き起こしたようなのだ。

 そのことに行き着いた武巳の携帯電話が突如鳴り、発信者を確認すると――空目からだった。第5章の終盤のこの場面から続く第6章にかけて、物語は急速にうねりを増し、緊迫感に充ちたクライマックスへと向かう。美しい夜桜の下、この事件の関係者が一堂に集結して、ある者は傷つき、ある者は壮絶な恐怖によって破壊されるのがまた、すさまじい。

 流麗な文体で紡がれる恐ろしくも幻想的、そしてグロテスクな物語は、読む人を選ぶかもしれない。それでも、著者独特の陰影のある世界観は、読む者を慄然とさせ、そして陶然とさせることだろう。

文=皆川ちか

『Missing 神隠しの物語』作品ページ