『わたしの幸せな結婚』に続く待望の新作は、愛憎渦巻く後宮を舞台にした中華ファンタジー! 顎木あくみ『宮廷のまじない師』読みどころは?

文芸・カルチャー

2020/5/23

『宮廷のまじない師 白妃、後宮の闇夜に舞う』(顎木あくみ/ポプラ社)

“シンデレラ”の敵は強ければ強いほどいい。意地悪や嫉妬を剥き出しに、あの手この手で攻撃してくる相手をかわす達成感と爽快感、そのなかでふと感じる“王子様”の愛――。親にも愛されず、唯一の味方だった幼馴染も異母妹と結婚、家中で邪魔者扱いされ、冷酷無慈悲と噂される久堂家に嫁ぐことになった娘・美世を主人公にした『わたしの幸せな結婚』(顎木あくみ/KADOKAWA)は、コミカライズ版(顎木あくみ:原作、高坂りと:漫画、月岡月穂:キャラクター原案/スクウェア・エニックス)とともに、今、増刷に増刷を重ねる大人気のシンデレラストーリーだ。

 女子のツボを衝く王道スタイルを踏まえつつ、和風ファンタジーで彩られた奥深い世界観、嫁入りから始まる恋愛という要素、そして美世を徹底的に苛め抜く異母妹をはじめとしたキャラクター造形で注目を集める著者、顎木あくみは「小説家になろう」発の同作が、書籍デビュー作。すでに多くのファンを持ち、熱い視線を注がれる気鋭作家がついに待望の新作を始動させた。

 新たなストーリーの舞台は、妖の息づく華やかなりし大陸最大の国・陵。『宮廷のまじない師 白妃、後宮の闇夜に舞う』(ポプラ社)は、霊力を自在に操る技と呪術や怪異の知識を駆使するまじない師見習いの娘が愛憎渦巻く後宮に入り、その闇に迫っていく中華ファンタジーだ。

 白髪に赤い瞳。その容姿から“鬼子”と呼ばれ、親に捨てられた過去を持つ主人公・珠華は、まじない師・燕雲に拾われ、街のまじない屋で見習いとして働いている。ある日、お忍びで店にやって来た陵国の若き皇帝・劉白焔に、まじない師としての腕を見込まれ、後宮で起こっている怪異な事件の解決と自身にかけられた呪いを解くために、後宮に入ってほしいと頼まれる。

「珠華。――俺の後宮に入れ」「だから。そなた、俺の妃となれ」
「はああああ !?」「……私が皇帝陛下の妃なんて、無理です。だいたい、私みたいな見た目の女を妃にするなんて、周りが納得するはずありませんし。しかもただの庶民な上、孤児ですし。呪詛や怪事件よりも面倒なことになりません?」

『わたしの幸せな結婚』の主人公・美世と同様、珠華は自己肯定のできない女の子だ。けれど、そこでうつうつと留まってはいず、自分が抱える“仕方ない”を認めたうえで、今の自分にできることを探り、良きと思う方向へ突き進んでいく。そこが顎木あくみの描くヒロインの魅力のひとつ。珠華が極めていくのは、誰かと自分の人生を良き方向へと導くまじない師としての技量だ。

“期間限定の偽装夫婦”。それが皇帝・白焔からの提案。彼にかけられた呪いとは、女性にふれると、たちどころにじんましんが出るという厄介なもの。ゆえに妻も娶れず、当然、後継ぎも望めない。その呪いを解くために後宮入りを決める珠華だったが……。

「ほら、早くそなたも休め」
「同じ寝台で寝ろと?」
「俺は天下で一番、安全な男だぞ。何しろ、触れられないからな」

 艶やかな黒髪を背中に流し、華やかな翠の瞳には微かな憂い。薄い寝間着からは鍛え上げられ、均整のとれた身体がのぞく。呪いと怪事件を解決するための“偽装夫婦”とはいえ、そんな白焔の姿と、皇帝にあるまじき、あっけらかんとした態度にドギマギする珠華。けれどそんなほのかな乙女心に杭を打っていくのが、他の妃たちからのあからさまな意地悪や憎悪だ。なかでも白焔と幼い頃から親しんでいる名家の娘・明薔の嫉妬は凄まじく、珠華の周りでは危うい出来事が次々と起こり始める。さらに後宮で起きているという怪異な事件を調べ始めた珠華が出会ったのは……。

 摩訶不思議な扉が次々と開いていくようなストーリー展開のなか、まじない師としての力を蓄えていく珠華。その力となるのが、“大丈夫、俺は人を見る目にはかなり自信があるのでな。そなたならできる”という白焔の言葉と、珠華がこれまで出会ってこなかった愛の形。≪私のことが好き≫な皇帝。なのに、自分に自信がなくて、仕事一本筋の珠華が、それに気づかないのもまたジリジリとするところで……。でもそんなところもまた好ましい。新たな顎木あくみワールドはまたもや女子を夢中にさせてくれる。

文=河村道子

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