テレワークでサボりがちなのは個人の意志と無関係? 科学で証明された自分を変える最強戦略とは

ビジネス

公開日:2020/5/25

『FULL POWER 科学が証明した自分を変える最強戦略』(ベンジャミン・ハーディ:著、松丸さとみ:訳/サンマーク出版)

 リモートワーク、時差出勤、週休3日――新型コロナウイルスの影響で、私たちは働き方の変革を迫られた。そして、この変化は、アフターコロナ、あるいはwithコロナと呼ばれる段階に入っても後戻りすることはないだろう。その結果、会社は社員の働きぶりを厳密に管理することは難しくなり、「成果」によって評価・給料を決めるようになっていくといわれている。
 
 オフィスに出社しなくていい、何時に働いてもいい、そういう環境が当たり前になったとき、サボらずにきちんと仕事ができるだろうか…? 「やる気があれば大丈夫」と思うかもしれないが、紹介する『FULL POWER 科学が証明した自分を変える最強戦略』(ベンジャミン・ハーディ:著、松丸さとみ:訳/サンマーク出版)を読めば、そう簡単な話ではないとわかるはずだ。人間は、意志よりも環境に影響される生き物。成果を出すためには「成功せざるを得ない状況」に身を置くべきだ――と著者は語る。「意志の力」を重視する自己啓発本やメッセージが多い中、「環境」にフォーカスする本書の切り口は新鮮だ。

「意志の力」はアテにならない

「人は、一緒に過ごす時間がもっとも長い5人を平均した人物である」

 これは著作家・講演家であるジム・ローンの有名な言葉だ。自分の親しい友人たちを思い浮かべてみると、いろいろな意味で似ている人が多いのではなかろうか。例えば、いま自分が就いた仕事には、どれだけ自分個人の意志が反映されているだろう。大学の同期たちを見渡していると、同じような業界・企業に就職しているメンバーは多く、したがって給料のレベルもそう変わらない。明らかに、先輩たちの就職先の傾向を踏襲している。ということは、ある大学に入った時点で、その「環境」が就職先を決めたともいえるはずだ。

 本書では、こうした例を数多く紹介している。住んでいる州が経済状況を決める。悪い仲間のせいで悪くなる…などなど。だが、これは「環境で人生が決まってしまう」と悲観的にとらえる話ではない。むしろ、本書の主張は「環境を変えられれば、人生は変えられる」という点にあるのだ。

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「成功せざるを得ない状況」が成功を呼ぶ

 本書には、「環境」を使いこなし、成果を上げるための方法が詰まっている。例えば、「神経科学上、職場でひらめく確率は16%」というデータがある。本書によれば、アイデアは、「有用なつながり」を作ることで生まれる。それは、仕事中ではなく休息中に生まれることのほうが圧倒的に多い。それならば、職場に夜中遅くまで残ってうんうんうなり続けるよりも、集中して仕事をした後、公園で思いきり「デジタル断ち」をしてみたりするほうがいいというわけだ。自分をとりまく「環境」を意識的にコントロールし、成果の出やすい状況に身を置く。「絶対にアイデアをひねり出すぞ」という強い意志よりも、役に立つのではないだろうか。

 本書では他にも「朝のルーティン」「締め切りを設ける」「無駄な選択肢をなくす」など、自分をコントロールする術が具体的に語られる。中でも筆者が納得し真似したいと思ったのが、「もし○○したら、××する」というルールを設け、条件の力で自制することだ(例:仕事中にメールをチェックしたくなったら、席を立って腕立て伏せを20回やる)。これはダイエットなどにも応用できそうである。

 思えば、遅々として進まなかった日本の働き方改革も、「オリンピック」や「新型コロナウイルス」といった大きな環境変化によって急激に進んだ。これも、環境といった外的要因が人を動かす好例だろう。「これをやりたい」という個人の意志も大切だが、それだけでなんでも達成できるほど私たちは強くないのだ…。

文=中川凌(@ryo_nakagawa_7