タオルメーカーの品質管理担当に“視覚障害者”を採用する企業も。その実情と利点とは?

暮らし

更新日:2020/6/16

『会社を変える障害者雇用―人も組織も成長する新しい職場づくり』(新泉社)

 新型コロナウィルスの感染拡大以降、私たちの働き方は一変。自由に外出できない上にテレワークが推奨され、飲み会までオンラインで行われるようになった。さて、「新しい生活様式」が求められている今。私たちは、コロナ後の社会をどう生き、コロナ後は会社でどんな働き方をすればいいのか。

 自身も身体障害者であり、企業の人事に関わってきた経験を持つ著者の紺野大輝氏が、「障害者採用をきっかけに社風も変わる」「障害者雇用を経営戦略と位置づけている企業が少ない今こそ好機」と説くのが、『会社を変える障害者雇用―人も組織も成長する新しい職場づくり』(新泉社)だ。

障害者の法定雇用率を達成している企業は48%。全体の半数以下

 著者は、脳性麻痺の障害を持 ちながらも、北海道の小学校・中学校・高校の通常学級を卒業。東京の大学に進学してからもホノルルマラソンに挑戦するほど、並外れた気力と体力を持 つ。だが就職活動を始めるようになってから初めて、障害者というだけで面接すらしてもらえないという社会の壁に気づく。1999年当時の出来事だ。

advertisement

 それから21年経った2020年。重度の身体障害者が参議院議員に当選したことで、国会議事堂のバリアフリー化が進んだことも記憶に新しいが、残念ながら障害者の法定雇用率を達成している企業は48%。全体の半数以下というのが、この国の実情だ。

 なぜ今、障害者を雇用すべきか。本書では、労働力人口の減少やダイバーシティの実現など様々な利点がデータと共に第一章にあげられている。特に障害者の採用には、法定雇用率達成以上の価値があると考えている著者。確かに障害者雇用はCSR(企業の社会的責任)の点や、2015年に国際連合で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の観点からも重要であろう。

障害者雇用が会社や組織にもたらす価値とは何か?

 だがそれ以上に、障害者雇用が会社や組織にもたらす価値とは何か。本書によると、障害者の特性が、新たな価値の創造やサービスにつながる点があるという。例えばタオルメーカーの品質管理担当に視覚障害者を採用。健常者よりも触覚に敏感な人材を配属することで品質を担保している事例や、聴覚障害のあるアナリストのアイデアから生まれたスマホでの会話が聞きやすくなる装置の開発事例を紹介。これまでの“”あたりまえ”を見直すことにより、障害者の特性が企業の強みとして発揮されるだけではなく、会社の雰囲気が優しくなったと感じている企業経営者の感想が本書にはある。

 一方、本書では障害者を雇用している企業の中でも、うまくいっている企業と、そうではない企業があることも指摘。障害者がいきいきと働く職場と、障害者が早々に辞めてしまう会社。その違いを、著者は障害者の雇用に法定雇用率以上の価値を感じている企業こそが、うまくいく企業であると断言。数合わせの採用ではなく、現場への目配りや心配りが必要であることを本書では丁寧に説明する。

障害者雇用の促進で、誰もが能力を発揮できる寛容な日本社会になる

 では具体的に、どのようなことをすればいいのか。本書には障害者の募集、選考、定着に向けての具体的な支援方法や、障害者のマネジメント担当者に向けたアドバイス、さらには障害者採用時によくあるトラブルなどの具体例や、障害者を雇用する際に知っておきたい法律や助成金制度の紹介などもある。これは“”障害者雇用の基本のキ”を知りたい人事担当者にも、役立ちそうだ。

『会社』というのは、反転すると『社会』になります。会社が良くなっていけば、社会も良くなっていくはずです。会社で障害者と過ごすことがあたりまえになれば、社会でも障害者の存在があたりまえになる。会社が一人ひとりの個性を思う存分活かせる場所になれば、誰もが能力を発揮できる寛容な日本社会になる。そう思わずにはいられません。

 と本書にはある。

 結局、障害があってもなくても、働く上で大切なことは誰もが同じ。そのことに、改めて気づかされた一冊だ。コロナ後の世界は、障害のある人たちと一緒に働くことで、さらに社会を大きく変えることができる。そんな絶好のチャンスが訪れたと思いたい。

文=富田チヤコ