「えっ?私がPTAの役員に?」“ツレうつ”の細川貂々が描くPTAのリアル

出産・子育て

公開日:2020/5/27

『アタックPTA』(細川貂々/朝日新聞出版)

 PTAと聞くと「あー子供の面倒なアレね…」と思う方が多いかもしれない。それはなぜか。まずPTAを理解できているのだろうか?

 『アタックPTA』(朝日新聞出版)は、『ツレがうつになりまして』シリーズで知られる細川貂々(ほそかわてんてん)氏のコミックエッセイだ。細川氏はPTA役員を3年務めた経験をもとに、ナゾめいた組織・PTAの実態、活動、くすっと笑える“トホホなあるある”、そして現実的な向き合い方を、架空のママ・相原ハルヒを通して描いている。このハルヒの漫画パートの終わりに、細川氏のわかりやすい解説が続く。

 小学校入学前の子供がいるママとパパ、そして今まさにPTA役員として活動しているひとは読むべきだと感じた。

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ある日PTA副会長になった母親の運命は…?

 相原ハルヒは小学4年生の娘をもつ専業主婦。ある秋の日、ハルヒの家に「あなたはPTAの役員に推薦されました」という電話があった。役員とは会長や副会長など、一般のPTA会員たち(親たち)を束ねる役職だ。いきなりふってわいたような状況に混乱しながら、ハルヒは「断るために」“本部役員説明会”に向かった。

 だが強く押されると断れない性格のハルヒは、説明会で懇願され、説得されてPTA本部役員を引き受けてしまう。「何もできないと思うけど…」自他ともにボーっと生きているハルヒは、クラスのPTA委員(=学級委員)をやらなくていいことを、のんきに喜ぶ。そして翌年、娘が5年生になった4月に、PTA総会が行われ、晴れてPTAの本部役員に就任する。

 実際に何をするのか、面倒そうだったけど何が大変なのか、ほとんど予備知識が無かったハルヒを待っていたのは、想像以上のしんどさだった。クセが強く対立している会長&副会長、平日の会議、あふれ返るPTA関係のLINE、夏まつりや運動会といった行事の準備、そして息のつまる学級委員決めの仕切り…。

 ハルヒは学校へ通い、行事の準備と参加に追われる日々となる。「やっぱり、PTAって面倒で大変なだけ…」と思う方が多いかもしれないが、本作を読むとその仕事は重要なものだとわかるだろう。

 教師だけでは開催できない学校行事や、地域行事などの準備やサポートを行い、PTA会員たちをまとめ、会合を仕切る。大変だけどやる必要があること、なのだ。

 ハルヒは夏まつりという行事で、ハードな準備を終えた当日に自分の子供の笑顔をみて、やりきった充実感をおぼえる。ただこれは始まりにすぎなかった…。

理不尽?大変?醍醐味は…? 不思議な組織PTA

 ここでPTAの組織概要や主な活動を説明する。なおPTA組織と活動は地域や学校によって一部異なる。本稿ではあくまで本作の情報を基にしている。

★PTAとは

 名称はParent(親)Teacher(教師)Associationの略。つまり親と教師の民間団体である。ざっくり言うと親と子供、そして学校や地域とのパイプ役だ。なお本来は任意加入なのだが、小学校に入学した子供の親は、ほぼ全員がPTA会費を払い、会員になる。

 近年では共働きも増えるなど、ライフスタイルが変化。これにより多くの親が定期的な会議への参加や役職につくことが厳しい現状だ。また任意であるはずのPTAへの強制加入や退会のトラブルも噴出。“PTA問題”として報道され、一部の地域では改革も進んでいる。

★PTAのポスト別の役割

・本部役員(=執行部役員): 会長や副会長など本作では8名
・学級委員(=学年委員):学校行事・係のまとめ役で総会の司会もやる
・地区委員:学校外の安全を管理する
・その他のPTA委員:上記ポスト以外の一般会員。月一程度の委員会(会議)に参加する

 本部役員はハルヒと細川氏が務めたポストで、一度なると学級委員が永久免除になる。学級委員は全PTA会員が6年の間に持ち回りで務める。ただほとんど誰もやりたがらないため、くじ引きなどで決め、時には紛糾する。ちなみに教師もPTA会員である。

★PTAの主な活動

・PTA内のポスト決め:役員や委員などの選任(会議や仕切り)
・学校行事の手伝い:運動会など
・運営委員会(常任委員会、実行委員会ともいう):全PTA会員、校長・教頭が参加する、月に一回程度ある会議。
・外部団体との連携:学校の校区にある団体の会議や行事に参加し、ヘルプを行う

★PTAの主な行事カレンダー

・10月:翌年の本部役員の選考・内定・説明会←ハルヒが推薦を受けて内定する
・11月:地区委員決め
・1月:餅つき大会
・4月:PTA総会(本部役員承認)/学級委員決め
・7月:夏まつり
・秋:運動会(役員は他校の運動会にも参加する)

子供のために無関心はNG! 関わらなければならないPTA

 PTAは子供をもったら必ず関わらざるをえない。それなのに多くの親はPTAについては無関心だ。

 面倒そう、役員や委員は怖い、だが子供のための活動である、と言われればイヤイヤながらもやらなくてはならない、そんなイメージだから無関心でいようとしているのかもしれない。ただ、PTAは無くなったら困る。でも一体全体どこが困るのかが、経験の無い親にはわからない。嫌なイメージと必要性、いずれもただただ不明瞭だ。

保護者が学校に入り込んでいかないと学校は閉鎖的になってしまうから、そのためにPTAは必要

 PTA役員を3年務めた細川氏はこう結論づけている。これも子供が小学生以下の親は、おそらくわからない。とにかくナゾだらけのPTA…であれば、ちゃんと自分事として知っておくべきなのである。無関心で遠ざけても解決はしない。知らなければ、それは子供のためにならないのだ。

 PTAの醍醐味は、子供たちのための活動を経験できること、これにつきる。

 繰り返すが、本作はこれからPTA会員になるひと、そして今PTAの活動をしているひと、つまりPTAに関わる全員におすすめしたい一冊だ。5歳児の親である自分もまた、妻と一緒にじっくり読みなおすつもりでいる。

文=古林恭