「源泉徴収」「年末調整」って何か説明できる? 元国税局ライターが説くお金の超基本知識

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公開日:2020/6/8

『すみません、金利ってなんですか?』(小林義崇/サンマーク出版)

 まだ日本経済に体力があった前までは、お金の基本的な知識を頭に入れなくても、会社に人生を捧げることで一家を養うことはなんとかできた。老後の心配もそれほどなかったし、子どもに資産を遺すこともできた。

 しかし今を生きる私たちは違う。コロナショックにより、日本の経済基盤はガタガタになった。かなりの数の企業が経営不振や倒産に追い込まれ、年金をはじめとする社会保障は一層厳しさを増す可能性がある。

 そんな時代に突入してなお、お金に無関心で生きることは無謀に近い。自分の身を守るためにもお金の基礎知識を身につけて活用する生き方が、今後ますます必要になるだろう。しかし「理屈はわかるけれども、何から学べばいいのか途方に暮れる」という人もいるかもしれない。

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『すみません、金利ってなんですか?』(小林義崇/サンマーク出版)は、元国税局ライターの小林義崇さんに学ぶ、お金の超基礎知識を紹介する本だ。

「源泉徴収ってなに?」
「年末調整をして何かいいことがあるの?」
「税金を支払わなかったらペナルティはあるの?」

 このように初歩的な話からていねいに解説されているので、お金に苦手意識を覚える人でも必ず読み通せる内容になっている。

源泉徴収とは所得税の前払いシステム

 もし手元に先月分の給与明細があれば、ぜひ「源泉徴収」もしくは「所得税」と記された欄を確認してほしい。本稿では、毎月の給料から勝手に天引きされる「源泉徴収」を中心に本書の内容をご紹介していく。

 税金を納めることは国民の義務である。その税金にはあらゆる種類があり、私たちの努力の結晶である毎月の給料にも発生する。それが所得税だ。

 しかし税務署が数千万人に及ぶ労働人口に、個別に「所得税を支払って!」と催促するのは現実的ではない。そこで「会社などの組織が税務署の代わりに、従業員にかかる税金を毎月あらかじめ給料から天引きする」システムがある。それが源泉徴収だ。

 ここで気にするべきは、「あらかじめ」という部分。所得税は1年間の収入で金額が決まるのだが、源泉徴収は「今月の給料がコレだから、所得税はたぶんコレくらいでしょ?」と概算で徴収している。つまり「税金を前払い」している状態なのだ。だから人によっては、1年間の源泉徴収額と所得税額に違いが発生する。

 そこで1年に1度、所得税を再計算して、支払いすぎた所得税を取り戻したり、もうちょっと所得税を納めたりするシステムがある。それが年末調整だ。

2019年の年末調整を逃した人も諦めないで!

 毎年職場で配られる年末調整の用紙にゲンナリして、テキトーに提出していた人は、もしかすると損をしているかもしれない。年末調整は頑張って正確に記入した人ほど税金がお得になるシステムだからだ。

 見逃しがちな事実だが、社会で働くにはお金がかかる。スーツなど仕事に見合った衣服や筆記用具、交通費など。この費用にまで税金をかけられるのはちょっと…となる。

 そこで所得税は、年収から必要経費を引いた「所得」に基づいて計算される仕組みになっている。しかし先述の通り、数千万人に及ぶ労働人口が個別に「これは必要経費だから!」と税務署に申請するのは現実的ではない。そこで「見なしの必要経費」として、年収に応じて自動的に計算して差し引きされるのが「給与所得控除」である。

 しかし社会人の中には結婚して子どもを養う人がいれば、健康が心配で医療保険に加入する人もいる。これらも社会人としては、ほぼ避けられない出費であり、きっちり年収から差し引きしてもらわないと困る。その差し引きを正しい用語で「所得控除」といい、その計算を行うのが年末調整なのだ。

 年末調整で所得控除として計上できるものはいくつかある。配偶者を扶養しているときに使える「配偶者控除」、医療費がたくさんかかったときの「医療費控除」、扶養親族がいる場合にも受けられる「扶養控除」、厚生年金や国民年金などを支払ったときに受けられる「社会保険料控除」、このほか「生命保険料控除」や「住宅ローン控除」など多岐にわたる。それぞれの詳しい説明は本書で確かめてほしい。

 とにかくこれらを計上すればするほど「所得控除額は大きく」なり、反対に「年収から差し引きされた所得は小さく」なっていく。所得が小さければ小さいほど、それに応じて算出される所得税と住民税も金額が下がる。つまり年末調整は、真面目に記入した人ほど得をする「税金の再計算システム」なのだ。

 ところが何かしらの理由で年末調整を逃してしまった人もいるだろう。けれども「なんてこった! 2019年分は諦めるしかないのか!」と嘆く必要はない。

 まだ「確定申告」という手段が残っている。確定申告とは、自分で1年間の所得を税務署に申告して、納税額を確定させること。ただしこちらは年末調整に比べて煩雑な傾向にある。税金が戻ってくる「還付申告」の場合は、過去5年分だけ申告を受けつけてくれる。反対に税金の支払いが足りない場合は、延滞税や加算税が発生するので注意だ。このあたりの情報は本書を読むか、ネットで調べるか、あらかじめ情報をしっかり頭に入れてから行動しよう。

税金を払えないときはすぐに役所に相談だ!

 税金に関連して知っておきたいのは、「税金を払わなかったときのペナルティ」だ。コロナショックのあおりで生活が苦しくなり、税金や社会保険の支払いに窮する人もいるだろう。ない袖を振れない以上、税金の滞納はやむを得ないが、だからといって放置するのは賢明ではない。

 たとえば住民税を滞納した場合、市区町村の役所から督促状が届く。それさえも放置すると、土地や建物(家)、車、生活雑貨など、あらゆるものを差し押さえられ公売にかけられてしまう。

 税金は支払わない期間が長引くほど加算されていくシステムなので、「払えないもん!」と突っぱねていると、冗談抜きで何もかもすっからかんになってしまう。

 さらに差し押さえるものさえない場合や滞納者が死去した場合、配偶者や子どもなどの相続人に「納税の義務」が引き継がれてしまう。相続人は相続した遺産で滞納した税金を支払うか(その頃には大変な金額になっている可能性が!)、相続放棄で納税の義務を逃れるしかない(その場合は遺産も諦めることになる)。

 どうしても税金や社会保険料を払えなくて困ったときは役所に足を運んで、担当者に事情を説明しよう。分割での支払いを認めてくれたり、差し押さえを待ってくれたり、事情に合わせた対応をしてくれることもある。また新型コロナウイルス関連の特別措置が受けられるかもしれないので、とにかく困ったときは役所に相談だ。

 このように本書では超基本知識を説明してくれるので、お金に苦手意識を持つ人でもイチから学び直せる。このほか「信用金庫や信託銀行ってなに?」「自己破産するとどうなる?」「学生時代の空白の2年間があると年金はもらえない?」など、あらゆるお金の基礎知識を紹介する。

 また株や為替に関する投資の基礎知識も本書で得られるが、世界経済の大幅な減退が予想されるので、本稿では取り上げなかった。どうしても投資は自己責任の一面があるので、興味がある人はご自身で確かめてほしい。

 経済的な厳しさが増すこれからの時代、お金のリスクは常につきまとう。自分の身を守るためにまず必要なのは、お金を正しく管理できる基礎知識。本書を読む意味は大いにある。

文=いのうえゆきひろ