『恋だの愛だの』辻田りり子、3年ぶりの新作は、知略謀略に長けているのに、どこかポンコツなポジティブ女子が主人公

マンガ

公開日:2020/5/27

『笠佐木梓と七人の敵』(辻田りり子/白泉社)

『恋だの愛だの』の辻田りり子、3年ぶりの新作『笠佐木梓と七人の敵』(白泉社)。前作の主人公・かのこが、常に傍観者に徹するべく人間観察を欠かさない女子だったのに対し、本作の主人公・笠佐木梓(かさざきあずさ)は、頭がキレるのは共通しているものの、注目を集めようとするタイプ。といっても、目立ちたがり屋なわけではなく、指定校推薦で有名大学へ行くのが目的だ。

 世の中には知っていないと損をするルールが溢れていて、スカートの短さひとつとっても、暗黙の了解から逸脱すると先輩から目をつけられるなど不利益をこうむるはめになる。だが裏をかえせば、ルールを把握さえしていれば、周囲を出し抜いて得をするということで、とにかく最短ルートで最大効率をあげようと野心に燃えるのが梓なのだ。

 というわけで、成績は悪くないものの、自力で順位をあげるには限界のある彼女は、先生のおぼえめでたくするために、自ら用事をつくりだしてでもポイントを稼ぐ。目的のためなら面倒くさい文化祭の実行委員長も引き受ける。傷つかないために群れを避けていたかのことは、努力の方向が真逆だけれど、同級生はみんな敵、ゆえに誰のことも信用せずに、やはり群れを避けているところは、ちょっと似ている。愉快な友人たちに出会って、少しずつまわりに人が増えていくところも。

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――が。あとがきで作者いわく、〈(かのこが)人生のポイントで何だかんだ言っても失敗しない子〉だったのに対し、〈(梓は)若干ポンコツというか…頑張ってるけど何かこうツメが甘い〉のだ。知略謀略をはりめぐらせるわりには、積極的に先生を手伝っていたのが裏目に出て、テスト問題の盗難を疑われたり、「ライバル視する程能力値の高い人と友達になるのはオトクな気がする」と、警戒していた相手を信じたがためにあっさり出し抜かれたり。挙句の果てには1巻のラスト、よもやあんな末路が待ち受けているとは……。驚きすぎて、読んでいて素で「へ!?」と声が出てしまった。

 だがしかし、〈でもメンタルは激強〉とこれも作者が言うとおり、何があってもへこたれず、プラスに解釈していく梓の七転び八起きを眺めていると、元気が出る。あまりに想定外の展開が続くので、次はどんな空回りをしでかしてくれるのだろうと、わくわくもしてしまう。

 想定外と言えば、恋の行方も、だ。好青年・竹内くんとのラブが待っているのかと思いきや、性格最悪の学年トップ・殿村くんがじわじわ急浮上していくのには驚いた(ちなみに描きおろしによれば、今後、殿村くんがらみでかのこたちが登場するかもしれないので、前作ファンは要チェック)。「高校生にラブ要素は必要ない」「学業第一!」という梓の発奮は、フリにしか見えないので、きっとこれからラブの何かが起きるのだろうけど、読者が予想するように展開するとも思えない。七人の敵、というからには、手に入れたはずの友人たちが、やはり思いもよらぬ形で裏切るのかもしれないし……。とりあえず今は、何がどうしたらこんな顛末になるの? なラストの理由を知るためにも、2巻が刊行される日を待つばかりである。

文=立花もも