毎日新聞連載の人生相談、ついに書籍化!『誰にも相談できません』私たちの悩み事に作家はどうアドバイスする?

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公開日:2020/6/7

『誰にも相談できません みんなのなやみ ぼくのこたえ』(高橋源一郎/毎日新聞出版)

“あなたには、あなたの人生を尊び、大切に扱う義務があります。それは、他の誰にもできないのですから”

 『誰にも相談できません みんなのなやみ ぼくのこたえ』(高橋源一郎/毎日新聞出版)に綴られたこの一文を目にしたとき、先入観が覆った。

 自分の人生を大事にすることは権利だと思っていた。だが、違うのだ。それは私たちが必ずしなければならない義務だった。

 上記は、中絶を繰り返したあげく恋人に振られて50年、孤独な日々を送っている女性の相談に著者が回答したものである。

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 相談者と同じ悩みを抱えているわけではないのに、この言葉のおかげで心が軽くなったのが不思議だった。

 著者高橋源一郎さんは1980年に小説家としてデビュー。小説のみならず海外文学の翻訳や文芸評論にも携わり、テレビ番組のコメンテーターをしていた時期もある。作家としての経歴を見ると華々しいイメージだが、著者は、これまでの人生で一筋縄ではいかない出来事を経験し続けた。

 幼少期に父が失踪、大学生の頃は学生運動に参加し逮捕されたこともあったそうだ。5回結婚、4回離婚していて、50代になってから育児に奮闘した。

 著者のように人生でたくさんの経験をし、困難を乗り越えた人は、他者、特に社会的に弱い立場とされる人々の痛みに敏感である。

“「否定的な言葉」に惑わされず、あなたを力づける「肯定的な言葉」を探し近づいてください”

“努力して報われなくても、やっぱりやりたい。そういうものを見つけてください。それ以外はどうでもいいじゃないですか”

 辛い立場にある相談者に、著者はやさしく寄り添う。

 一方で、子離れができない親や、嫁姑問題で「嫁」の気持ちを理解できない家族に対してのアドバイスは厳しい。

“相談者とそのご家族には、出ていかれた「嫁」の思いがどうなのかを考えたり想像したりする気持ちがまるでない”

“「子どもの人生の問題」に、親も介入することはできないのです”

 弱者に寄り添い、他者に感情移入できない人に対しては反省を促す。ときにやさしく、ときに厳しい回答は、いつしか私たちの心に希望の光を灯す。

 著者は自分の人生相談の特徴についてこう語る。

“わたしに誇れる点があるとするなら、誰よりもきちんと、悩みを抱く人たちのことばに耳をかたむけようとしてきたことだと思います。わたしには、彼らの気持ちがよくわかるような気がします。わたしもまた、誰かに話を聞いてもらいながら生きてきたからです”

 本書は毎日新聞「人生相談」の内容をまとめたもので、連載は今(2020年4月時点)も続いている。今後も人生の糧になる言葉が出てくるのだろう。引き続き楽しみで仕方ない。

文=若林理央